今回、フォロワーのみなさまにアンケートを実施させていただきました。その結果、「2021年に最も期待する選手」として、浅野雄也選手が1位となりました。
本年、最初の記事として、サポーターの期待度No.1の浅野雄也を取り上げさせていただきます。ぜひ、お読みください。
昨年12月17日、五輪代表候補合宿招集の報を受けて、浅野雄也は少し緊張気味に感想を語る
浅野雄也はあくまで「浅野拓磨の弟」として、広島サポーターから見られていた。
「拓磨のファンの方々がみんな、僕のファンになって貰えるのではないか」
兄と同じ29番を与えられたことを加入記者会見(昨年1月11日※以下、特に断りがない限り、日付は昨年)で聞かれた時、雄也は笑顔でこう答えた。
普通は、笑えない。優れた兄と比較されることを、弟は最も嫌うものだ。
12月10日のシュート練習でゴールを外し、頭を抱える浅野雄也。しかし城福浩監督は、彼の動き方を称賛する
プロの世界は残酷だ。教育の世界ではタブーだとされている「兄弟との比較」を、何の意識もなく言葉にしてしまう。無邪気に「兄と比べて……」などと口にしてしまう。
少年時代から雄也は、サッカーにおいては常に拓磨との比較にさらされた。
兄・拓磨は、名門・四日市中央工で選手権決勝に進出し、大会得点王にもなり、争奪戦の末に広島に加入。リオ五輪やロシアワールドカップ最終予選でゴールを決めたり。広島でも2015年、途中出場だけで8得点。チャンピオンシップではMVP級の活躍。
一方、雄也はどうか。家庭の経済事情を考え高校は四日市中央工ではなく、サッカーでは無名の公立高に進学。特待生として誘ってくれた大阪体育大に進学。水戸へのプロ入りが決まった時も特に争奪戦となったわけではなく、年代別代表に選出されたこともない。
それでも「タクがやれるのであれば、俺も」という強い意志を失ったことはなかった。「浅野拓磨の弟」というラベルが貼られても、それを刺激に変えた。7人家族で経済的にも厳しい中、スパイクを兄に貰えることに感謝してサッカーに打ち込んだ。
一昨年、広島からオファーが届いた時も「拓磨の弟だから」という言葉がつきまとった。
11月19日の紅白戦で茶島雄介のパスを受けてシュートを放った浅野。この2人の右サイドでのコンビネーションは、大きな武器になった
「そんなこと、どうでもいい。広島で結果を残せば、周りも黙るやろ」
雄也の最大の武器は、この気持ちの強さだ。そしてサポーターの心をわしづかみにしたのも、プレーに現れる闘志だ。
「おとなしい選手が多い中、気持ちで引っ張れる選手は貴重」
「兄よりもメンタルが強いのではないか」
「(苦しい時も)雄也がどうにかしてくれそうに思う」
アンケートの中に溢れていた雄也への想い。それは、彼が自分のプレーの熱さで勝ち取った評価でもある。
12月9日、今季の振り返りを問われ、65点という評価を語る
当初、雄也はワイドでの活躍を想定されていた。だが、足立修強化部長は「シャドーでのプレーにも期待したい」。その言葉が現実となったのは、ルヴァンカップ札幌戦である(8月5日)。
広島で初めてシャドーで先発したこの試合、浅野は「ゴールが近い」と感じた。それまでワイドでは窮屈そうに見えたプレーが解放され、タッチラインの縛りから自由になった青年は22分、強烈な左足シュートを突き刺した。
やれるっ。
強い自信を手にした若者は、そこから約2ヶ月で5得点1アシスト(公式戦)。10月3日の鳥栖戦では角度のない場所からPA内に侵入し、狭いスペースを切り裂く高精度のシュート。兄も記録できなかった二桁ゴールも視野に入った。
だが、ここから浅野はJ1各チームの徹底的な研究に合う。左足を封じられ、得意のカットインからのシュートもブロックされた。札幌戦のように巧みなフリーランからスルーパスを受け、レアンドロ・ペレイラのゴールをアシストするなど局面で能力を見せたが、「自分が決めれば勝った試合もあった」という彼自身のコメントが全てだろう。
11月12日のトレーニング後、警戒されていることに対してポジティブに受け止める言葉を残す
実際、アンケートにもこんな言葉が並んだ。
「フィニッシュの精度をあげてほしい」
「右足を磨いて」「最後はもどかしさを感じた」。
そして、こうとも。「もっとできる」。
シーズン前とは比較にならないほどの注目を浴び、生まれて初めて「年代別代表候補」に選出された浅野雄也への期待は高まるばかり。5得点3アシストという記録は決して悪くはないが、サポーターの期待は「二桁得点で広島の顔に」とその上をいっている。
代表候補選出に一喜一憂することなく、常に全力を尽くすことを誓う
来季に期待できる選手として最多得票を集めたレフティに対し、「拓磨の弟」と表現する時代は終わった。広島屈指のシューター・浅野雄也は、「もっと点をとりたい。決めきるために練習します」と繰り返す。
「大ブレイクの予感がする」
「兄弟で日の丸を背負ってほしい」
サポーターの声に、深く深く、共感する。
浅野雄也(あさの・ゆうや)
1997年2月17日生まれ。三重県出身。7人兄弟の四男。二学年上の兄・拓磨とは毎日のように喧嘩、そしてサッカーでも競い合った。そのことが彼の成長につながり「タクには感謝している」と彼は言う。2020年、水戸から広島に移籍。サポーターから「今年1番の補強」「想像以上の活躍」と高く評価された。年末には、U-23日本代表候補合宿にも招集。
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