ピッチを叩く音も激しい豪雨の中、金髪の若者が一気に飛び出す。
スルーパスを呼び込み、左足を一閃。
パサッ。
ネットが揺れた。
「いいぞっ、ユウヤ」
仲間の称賛が飛ぶが、浅野雄也に笑顔はない。決めて当然の表情は、結果を出せている男の余裕か。最近の彼は、練習の一つ一つのプレーに対して、一喜一憂しなくなった。9月17日、柏戦に向けてのメンバー選考の場でもある紅白戦での出来事だ。
ここまで15試合4得点。2015年にベストヤングプレーヤー賞を受賞した兄・拓磨が記録したペース(15試合3得点)を上回る。最近3試合で2得点、圧巻の活躍だ。
8月5日、ルヴァンカップ・札幌戦。それまでワイドで結果を残せなかった浅野を城福浩監督が1.5列目で起用したことが、物語の節目となった。
パスミスを見逃さない鋭さ。DFに囲まれても武器の左足を振ってゴールを叩き込む獰猛さ。まさに狼のごとし。その4日後の湘南戦でも得点を決め、彼の本質がチャンスメイカーではなくシューターであることを証明した。
ミドル、ワンツー、ボレー。彼のゴールは全て美しい。
「センスですね」
浅野は笑う。確かに、拓磨とはスタイルが違う。
「ま、タクにはできないでしょう(笑)」
広島の歴史に輝く英雄・佐藤寿人が付けていた11番の後継者になれるのでは?
「いやいや(笑)。11番はタクが広島に戻ってくる時のために、空けておきますよ」
兄のワントップ、弟のシャドー。実現すれば、本当に胸熱である。
浅野雄也(あさの・ゆうや)
1997年2月17日生まれ。三重県出身。7人兄弟(6男1女)の四男で三男の拓磨とはライバルのように育った。大阪体育大での活躍が注目され、2019年に水戸加入。今季から広島でプレー。背番号29は兄が最初につけた番号でもある。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】