今季最後のトレーニングでも、最後まで練習を続けていたのは増田卓也だった。
12月18日、エディオンスタジアム広島のピッチで彼は、何本も何十本もシュートを受け続ける。
その度に身体は激しく大地に打ち付けられ、肉体にはダメージが残る。
それでも、彼はトレーニングを止めない。ピッチから他の選手が誰もいなくなって30分、いや1時間近くたってようやく、彼はロッカールームへと向かい始めた。
練習場では極めて、日常的な光景。2020年、広島で最も練習量が多かった選手といっても、過言ではあるまい。
「まずは自分を成長させることだけを考えています」と言う増田の練習への姿勢は厳しく、妥協はない
ロンドン五輪日本代表予備登録選手であり、期限付き移籍先のJ2・長崎では2017年、守護神として全試合に出場してJ1昇格に貢献。「トータル能力に優れている」と藤原寿徳GKコーチも称賛する。
紛れもない実力者。その彼が今年、1度もベンチ入りすら果たせない、普通は腐る。だが、増田のモチベーションは常に高い。
「広島に戻ってきたことに後悔は微塵もない。実際、僕は成長しているから」
試合に出なくても?
「そうです。届かなかったシュートに手が届くようになったし、スピードも力強さも増しているのは練習の映像を見ても明らかです」
試合に出られないことに対して想いを募らせるのではなく、自身の成長にフォーカスする。その姿勢はまさにプロの鑑
だからこそ、サポーターの前で力を示したいのでは?
「もちろん、試合に出たい気持ちは炎のようです(笑)。それに」
想いの発露は続く。
広島出身の選手として、サンフレッチェ広島でプレーすることに対して、増田卓也はいつも誇りを持っている
「コロナ禍の中、たくさんの方々の支援を受けてサッカーができている。感謝の想いを込めて、僕は広島に明るいニュースを届けたい。だからこそまず、練習で自分を成長させたいんです」
今季最後の取材を笑顔で受けてくれた増田のプロフェッショナルな想いが、胸を突き刺した。
増田卓也(ますだ・たくや)
1989年6月29日生まれ。広島市出身。少年の頃から熱烈な広島サポーター。広島皆実高時代にGKを始め、急激に成長。2012年、流通経済大から広島加入。2013年、リーグ戦初先発となった大宮戦で相手と衝突し、脳しんとうを起こして救急車でピッチから運ばれた。この時の両チームサポーターの素晴らしい応援は感動的で、両サポーターはその年のJリーグアウォーズで「チェアマン特別賞」を受賞している。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】