乾いた金属音が冬空に響き、「ナイスプレー!」「ちゃんと捕れー!」などの掛け声や、快活な笑い声がフィールドを包む。
軽快(時にコミカル)な動きで白球を追う彼/彼女たちは、実は全員テニス選手。
この日、兵庫県のビーンズドームを拠点に活動する選手やコーチたちは、ラケットをバットに持ち替え野球に興じていた。
ユニフォームに身を包み、気合十分でシートノックをする岡村恭香。狙った場所に打ち分ける能力はさすが
複数の競技をプレーする効能は、“クロストレーニング”として世界的に広く認知されているものだ。
特定の競技に専心すると、どうしても身体の動かし方に癖が生じる。
そこに他種目の動きを加えることで、日頃使わぬ筋肉に刺激を入れたり、動きの癖を取る効果が期待できる。
加えて大きいのは、身体を動かしつつ頭をリフレッシュする機能。
今回の野球大会は、このリフレッシュが主目的だろう……と思ったが、トレーナーの横山正吾氏(トップ画像左から二人目)は「気分転換は大きいですが、トレーニングとしての意味合いもあります」と明言した。
「野球はテニスコートよりも広い場所で動くので、クロスステップを踏む初動や予測能力、大きな身体の動かし方などが求められます。また野球のバッティングはテニスのスイングに比べ重心が後ろですが、テニスでもパワーを生む打ち方は野球と似たものがあります」
実際に、攻守に活躍した岡村恭香(トップ画像左)、岡村一成の兄妹は、それらの効果を実感しているという。
「バッティングをした後は、テニスでもボールを捉える感覚が良くなる気がする」と妹が言えば、兄は「重心を後ろに残すバッティングフォームは、今取り組んでいるベースライン後方からのスイングに似ているんです」と続けた。
マウンドに立つのは加藤未唯。その制球力と球筋の良さには、横山トレーナーも感心しきり
また、ピッチャーとしてマウンドに立った加藤未唯(トップ画像中央)は、「子どもの頃から野球をしていたら、肩が強くなるだろうな」と感じたという。
そして今回の野球を見て感じたのが、ウォームアップ時には球をこぼすことも多かったテニス選手たちが、いざ試合が始まったら、途端にプレーの質が上がったこと。
たとえ競技は異なろうとも、勝負事となれば一気にスイッチが入る――そんなアスリートの本能を見た思いだった。
加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年11月21日京都市生まれ。2017年全豪OPベスト4や2018年東レPPO優勝など、ここ数年は主にダブルスで活躍。高い運動能力には定評あり。
・全勝Vの加藤、サーブ強化の証は足にあり!
・加藤の華麗なプレーの背後にあるものとは…
岡村恭香(おかむら・きょうか)
1995年10月6日岡山県生まれ。フォアの強打を武器に今年は全豪OP予選に出場。兄と共に子どもの頃から親しんだ野球でも、かなりの強打自慢。
岡村一成(おかむら・いっせい)
1992年5月26日岡山県生まれ。早稲田大学のエースとして活躍し、全日本学生選手権単複準優勝の実績を引っさげプロ転向。妹の遠征にコーチとして帯同することも。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】