フレンチオープン初勝利を掴んだ時、日比野菜緒に派手な歓喜の表出は無かった。
ただそれは、彼女の胸中を反映してのことではない。
「相手に悪いので、あまり大喜びしないようにしているんです」
抑えていた喜びが湧き上がってきたのは、試合後にジムでクールダウンしている時だった。
全仏OP本戦3度目の出場にして念願の初勝利をつかみ取った瞬間の日比野
18歳の新鋭マルタ・コスチュクを6-4,6-0で圧倒した日比野の、好調の予兆は戦前からあった。
全仏同様にクレーコートで戦う前哨戦のストラスブール国際(9月19~26日開催)ではベスト4入り。しかも3年前の全仏女王エレナ・オスタペンコを含め、二人のグランドスラム優勝者を破る快挙付きだ。
これまで苦手意識を抱いていたクレーでの突然にも見える覚醒に、本人も「びっくり」と声のトーンを高める。
ただ躍進の伏線は、実はツアー中断期にしっかりと張られていた。
6月30日発信の記事でもお伝えした通り、当時の日比野は「ミドルクロス」の精度アップに多くの時間を割いていた。
6月30日配信した動画は、ターゲットを狙いミドルクロスの精度向上に励む日比野の姿を捉えていた
サイドライン際、やや浅めの位置に置いたターゲットを、繰り返し狙って打っていたのもこの頃。コーチから「戦術の幅を広げるショット。特にクレーで生きる」と言われていたその武器が、ツアー再開後のクレーコートで開花したのは必然だろう。
日比野本人も「ミドルクロスを身に付けたことで、ひとつ自分の引き出しが増えました」と、早々に発揮された成果に声を弾ませた。
それら技術や戦術面の拡充に加え、ツアー再開後は「テニスができる喜び、多くの方が支えてくれていることへの感謝を感じられている」という日比野。
心身の充実のなか、成長の足跡を赤土に刻んでいく。
日比野菜緒(ひびの・なお)
1994年11月28日生まれ、愛知県出身。WTAツアー優勝2度、準優勝も3度経験し、ダブルスでも2つのタイトルを持つオールラウンダー。コート上だけでなく、オフコートでも知識や関心の幅は広い。
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