「彼女の攻撃的テニスと、しっかりスピンの掛かったボールにかなり手こずりました」
世界ランキング71位の日比野菜緒が、安堵の笑みを漏らして対戦相手を絶賛した。
10月31日の全日本選手権の準決勝で、日比野が戦ったのは18歳の佐藤久真莉。
小学生の頃から関係者たちの期待を集め、天才少女と呼ばれてきた選手である。
多くの識者が佐藤を絶賛した訳は、ボールの芯をクリーンに打ち抜く能力にあった。ただ突出したセンスに頼りすぎ、一時は、やや攻撃が単調になったことも。
その彼女が今大会では、高く弾むボールやネットプレーなど、多彩なカードを手元に揃えるオールラウンダーに変貌していた。
画面奥が佐藤。今大会では、フォアで相手を崩しボレーで決める場面が多かった
本人に理由を問うと、「一定のリズムで攻めるだけだと、相手にもばれる。コーチとも相談して変えていこうと思った」と、意識的に変化を求めてきたと明かす。
目指すテニスを体現するため、新たな声も取り入れた。3年前まで現役として活躍した近藤大生を、今夏からアドバイザーとしてチームに招聘。ネットプレーを得意とした近藤の助言は、佐藤のテニスに立体感を与えていった。
日比野との対戦では、第3セットで先にブレークし勝利に迫るも、最終的には逆転負け。
ただ、トップの実力を痛感した敗戦も、伸び盛りの18歳には貴重な財産。
「試合ができていなかったなかで、3回勝って日比野さんとも良い試合ができた。良かったプレーをもっと磨いていきたいです」と、未来への光を見出した様子だ。
その伸びしろを、日比野も肌で感じただろう。
自身を追い詰めた18歳について、世界のトップランカーはこう言った。
「これから、ライバルになるんじゃないかなと思います」……と。
佐藤久真莉(さとう・ひまり)
2002年4月10日、埼玉県生まれ。10代前半の頃から欧米開催のジュニア大会で活躍し、昨年プロに転向。夢は子供の頃から一貫して「世界一」。
日比野菜緒(ひびの・なお)
1994年11月28日、愛知県生まれ。単複でツアー優勝を誇るオールラウンダー。今季は苦手意識のあったクレーコートでも結果を残し、さらにプレーの幅を広げている。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】