気温は11~12度までしか上がらず、断続的に舞い落ちる秋雨と身を切るような突風は、体感温度を実際の数字より遥かに低く感じさせる。
水分を含んだボールは重く、赤土の上を望むように跳ねてはくれない。
入場観客数を1000に絞った会場に人はまばらで、錦織圭が戦うコートの客席も大半は空席。
試合中は誰と話すことも禁じられているテニス選手の孤独を、一層深めるような光景だ。
それでも、フレンチオープン初戦を戦う錦織は、心強さを感じていたという。
観客は少なくとも詰めかけた関係者たちが送る熱量は高い。錦織サイドのベースライン後方で拍手を送るのが日本の選手やコーチたち
「本当にありがたいことに、日本のコーチや選手たちが応援に来てくれたので、それが力になりました」
錦織が戦う14番コートには、日本ナショナルチームのコーチ陣の他、内山靖崇や土居美咲、マクラクラン勉に加藤未唯、さらには予選決勝で敗れた奈良くるみらが駆けつけ、寒さに震えながらも熱い声援を送り続けていたのだ。
それらの声援を背に受けて、3時間49分の死闘の末、1-6,6-1,7-6,1-6,6-4のフルセットで復帰後グランドスラム初勝利を手にした錦織。
ところが会見ではコート上の雄々しい姿から一転、伸びた前髪を気にして「やべぇ」とおどけるなど、変わらぬ緩やかさを見せた。
肘の手術を経て再び上を目指す柔和なエースの帰還を、“チーム・ジャパン”全体が歓迎し後押しする――そのような熱も感じられた、錦織の開幕戦だった。
錦織圭(にしこり・けい)
1989年島根県松江市生まれ。13歳時に渡米し、以降はフロリダ州のIMGテニスアカデミーで腕を磨く。2014年全米OP準優勝。最高ランキング4位。ATPツアータイトル数12を誇る。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】