多くの人がネガティブに捉える要素も、考え方や立場一つで、ポジティブな要因になりえる。
通常の5月末から4ヶ月遅れで開催され、寒さが厳しさを増した今年のフレンチオープンに大半の選手は閉口する。
新しい公式球に対しても、「重い」「跳ねない」とネガティブに受け止める声が多い。
その中で西岡良仁は、この状況を「僕に分がある」と捉えたという。
本来なら西岡も、スピンを掛けた弾むショットを多用する選手。重いボールは、小兵の彼には不利かと思われた。
だが彼は、「このボールと寒さなら、後方から思いっきりしばいても入ってくれる」と考える。
そして初戦のフェリックス・オジェアリアシム戦でも、リターン時のポジションを下げ強打することを試みた。
この策が、ピタリとハマる。
コート後方で自分の時間を確保しつつ、チェスのように二手・三手先まで計算しながら相手を振り回す西岡の巧みさに、20歳の新鋭は対応しきれない。終わってみれば、西岡が7-5,6-3,6-3で圧倒した。
西岡はこの試合の前日に、25歳の誕生日を迎えたところ。
相手に経験の差を見せつけた、心憎い快勝だった。
西岡良仁(にしおか・よしひと)
1995年9月27日生まれ。三重県津市出身。170cmと小柄ながら、驚異のコートカバー能力と知性を生かし、大柄な相手を手玉にとる“ジャイアントキラー”。サウスポーから繰り出すスピンの掛かったショットと、直線的にコートを切り裂くバックが武器。ATPツアー1勝、最高ランキング48位。
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