その叫びは、突然、響き渡った。
「ポウハッ!!」
ポルトガル語での悪態。発したのは、ドグ(ドウグラス・ヴィエイラ)だ。
歴代のブラジリアンの中でも紳士であり、温厚であり、人望の厚い男が、これほどの怒りを表現したのは、練習・試合を通して初めてだ。
パスが出なかった瞬間、温厚な男が叫んだ。音声で怒りのトーンがはっきりとわかる
「ドグッ、やれよっ」
プレーをやめたとみなしたのか、沢田謙太郎ヘッドコーチが叫ぶ。言い返すドグ。言語は違うが、お互いの怒りが交錯する。
原因は、GK大迫敬介のプレーにあった。10月1日の紅白戦は、メンバーのセレクションという意味で重要な意味を持っていた。その緊張感の中でのこと。
「切り替えっ」と叫んだ大迫。それに反応して裏をとろうとしたドグ。彼の前にパスが出ればビッグチャンス。しかし、ボールは出てこない。その瞬間、ストライカーは叫んだのだ。
紅白戦が終わるとすぐにビブスを脱いで、丸めた。動画には映っていないが、この後、彼は芝生に叩きつけた。こんなドグは見たことない
練習後、この件について尋ねると「それはコーチに聞いてくれ」とにべもない。他の話題を振りつつ最後にもう1度聞くと、感情が収まったのか、言葉を発した。
「僕はまず自分に対して高いレベルを求める。その上で、周りにも要求する。自分はどんな時も手を抜くことはできないし、それはみんなも同じこと。そこにぶつかりあいが起きても、チームの雰囲気が悪くなることはない。全ては試合に勝つためだし、時には言い合うことも必要だからね」
練習後、ウーゴ通訳が大迫敬介のもとに近づき、ドグの怒りについて説明していた
ドグらしい笑顔で締めくくってくれた。
大丈夫。正直、安心した。
ドウグラス・ダ・シルバ・ヴィエイラ
1987年11月12日生まれ。ブラジル出身。幼い時からフラメンゴのサポーターでジーコに憧れた。2016年、東京Vに加入。J2とはいえ3年で37得点を叩きだし、2019年に広島移籍。愛妻家の彼にとって7月に奥様が来日できたことが何よりの力になった。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】