「肩甲骨を寄せて」「腹筋を入れて」「股関節を締めて」
トレーナーがアスリートを指導する際、使われる言語は時に独特だ。
正直、一般人にはピンと来ない。というより、やろうとしても上手くできない。
練習前のウォームアップ。男女複数名の選手がトレーナーの指示で1時間身体を動かす
「その言語の共通認識を築くことが、トレーニングの第一弾。実は、これにけっこう時間が掛かるんです」
兵庫県のアカデミーで、日比野菜緒ら複数の選手を指導する横山正吾トレーナーは、そう明かした。
外形的なポーズや動きだけを真似ても、真の効果は生まれない。どの筋肉にどう負荷を掛けるかを認識することで、成果には雲泥の差が生まれる。
だからこそ、指導開始時にトレーナーが真っ先に重視するのは、言語と運動の擦り合せだ。
仲間にちゃちゃを入れられつつも、横山トレーナーの指示を忠実に遂行する清水悠太
例えば、ゴムでウェイトをぶら下げたバーベルを背負う狙いは、不安定な状態で「“体幹が抜けそう”になるところでバランスを取る」こと。言語化が困難なこの動きが出来た瞬間、選手に「そうそう、それ!」と声を掛け言葉と肉体的感覚を重ねていく。
言語理解と身体的表現の連動性――それこそが優れたアスリートへの第一歩であり、共通言語を築くこともまた、トレーナーの匠の技だ。
横山正吾(よこやま・しょうご)
高知県高知市出身。高校時代まで野球に打ち込み、専門学校時代にトレーナー見習いとしてテニスに出会う。現在は、テニスラボ、伊予銀行テニス部、島津製作所テニスチームなどで数多の選手を指導。趣味は遠征先での観光地自転車巡り。
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