やっぱり——そう思わずには、いられなかった。
「もう一回、ツアーに挑戦しようかと思って」
彼女の口から復帰の決意を聞いたのは、復帰戦となるエジプト遠征直前の3月上旬のこと。
2018年の「セミリタイア」から、約3年が経っていた。
澤柳璃子がツアー生活から身を引いたのは、23歳の時である。
グランドスラムで活躍する同期たちの背を見ながら、「私は、もう無理なのかな」と自らに見切りをつけた。
だがその後も彼女は、国内の非公式戦や全日本選手権などには時折出場し、第一線でも戦える力を示していた。
何より印象的だったのが、20歳前後の頃には見られなかった溌溂とした笑顔が、試合中にも見られたこと。
そしてドロップショットやスライスを多用し、戦術の幅が広がったように見えたことだ。
そのことを指摘すると、「以前より動けない分、頭使わないといけないので」と、彼女は快活に笑った。
カンガルーカップでの澤柳(奥)。多彩な攻撃で単複ともにベスト4入りを果たした
そのような会話を交わした昨夏から1年近く経った、今年5月。
彼女の姿は、岐阜市で開催された“カンガルーカップ”にあった。
その2回戦で澤柳は、世界ランキング300位台の加治遥に勝利する。
強打を誇る加治の攻撃をしのぎ、ボレーなどの多彩な攻めでポイントを奪う、相手を術中にハメた勝利だった。
「攻められることは分かっていたので。粘り勝ちです」
昨夏の時点では「以前より動けない」と言っていた彼女が、粘り強さを口にする。
「エジプト遠征で、フィジカルの足りなさを痛感した。帰国後はウェイトトレーニングやスクワット系のトレーニングを重点的にしました」
「泥臭い勝利」の背景には、課題克服への手応えがあった。
復帰して以来、複数の大会に出て「誰が勝ってもおかしくない」との空気感を肌身で感じたという、26歳の再出発。
「ちゃんとやるべきことをやっていけば、いつか勝てるようになるんじゃないかな」
しなやかな自信と覚悟が、明るい声に宿っていた。
澤柳璃子(さわやなぎ・りこ)
1994年10月25日生まれ、北海道函館市出身。16歳時に、同期の加藤未唯と組んでITF1万ドル大会ダブルス優勝、17歳時に全日本選手権シングルスベスト8など、若くして実績をあげ注目を集める。2018年春に第一線を退くも、コーチ業等を経て今年3月にツアー復帰。
現役を退いた澤柳、その胸に秘めた思いとは?
【内田暁「それぞれのセンターコート」】