【昨年末に行ったアンケートの結果をもとにしたコラム企画。今回は「2020年の印象に残った瞬間・試合」と「2021年に活躍しそうな推し選手」の、双方で多くの声を集めた二人の選手を中心にお伝えします】
新時代の幕開け――。
2020年を言い表すなら、そのような言葉になるだろうか。
世代交代待望が叫ばれたまま男子テニス界には長い年月が流れ、30代を迎えても従来のトップ選手たちが、支配の手を緩めることはなかった。
特に、過去3年間タイトルを独占してきたロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、そしてノバク・ジョコビッチは“BIG3”と称され、畏敬の対象となっている。
ティームが踏み出した、新たなる地平
そのあまりに厚い壁に、穴をうがつべく挑み続けてきたのが、ドミニク・ティームだ。
特に2020年の全豪オープン決勝では、ジョコビッチを追い詰め優勝に肉薄。
それでも、僅かに栄光に届かなかった彼は、表彰式で優勝者に向けてこう言った。
「あなたと、他の二人の選手たちがテニスを全く異なるレベルに引き上げてくれた。その時代に生きあなた達と競えることを、誇りに思います。今日は少し届かなかったけれど、いつの日か追いついてみせます」
全豪の表彰式でジョコビッチに賛辞を述べつつ雪辱を誓うティーム
試合直後に行われるセレモニーでは、敗者の言葉は、時に勝者のそれ以上に人々の胸を打つ。
この時のティームのスピーチは、彼の情熱的かつ実直なプレーの余韻とも相まって、スタジアムを感傷と新時代への期待に包んだ。
ティームが自らの言葉を実現する機は、昨年9月のニューヨークで訪れる。
ナダルとフェデラーは欠場し、ジョコビッチも4回戦で失格したため、“BIG3”を欠いた決勝戦ではあった。
ただ、アレクサンダー・ズベレフとネットをはさみ、これまでの“挑戦者”から“優勝候補”に立場を移し戦う頂上決戦で、ティームは「かつてない重圧を覚えていた」という。
硬さが拭えぬまま2セットを失い、その窮地から挽回し突入したファイナルセット。
けいれんする足を引きずるようにフィニッシュラインに達した時、彼はコートに大の字に倒れこんだ。
「ティームが全米を泣かせた優勝。片手バックハンドの選手でも勝てることをフェデラー以外でも証明してくれたから」
「彼の諦めない、絶対に勝ちたい気持ちに感動しました!本当に心からおめでとうと言いたいです!BIG3を倒してないからという人もいますが、遜色ない試合だったし、なによりもティーム選手、BIG3は全員倒しているのですから!」
「ティーム選手とズベレフ選手のGS初優勝を懸けたファイナルセットの死闘が印象的でした」
試合終盤はお互いにミスも増え、「ここ数年で最も質の低い決勝戦」という手厳しい声も無かった訳ではない。
だがそれ以上に、新時代の扉を開くべく心身を削りあった二人の姿が、見る者の心を揺さぶったのは、このアンケート結果からも明らかだ。
成熟と初々しさを兼備する新ヒロイン・シフィオンテク
「あの若さで何度もグランドスラムを優勝しているかのような貫禄あるプレイに、凄い選手が出てきたと感銘を受けた」
「若さと巧みさ、冷静な判断力と実行力を兼ね備えていると感じ、見ていてワクワクしました。来年の活躍も期待しています!」
「上手くて若くて爽やか!期待を込めて来年もテクニカルなテニスをしてほしい!」
男子とは対象的に、女子テニス界では毎年のように“新女王”が誕生する混沌状態が、ここ数年続いている。
ただ、2020年の全仏オープンを制した19歳は、前出のアンケートの声が示すように、新時代を牽引していくであろう瑞々しいスケール感に満ちている。
イガ・シフィオンテク。
それが昨年の全仏オープンを制した、新ヒロインの名だ。
優勝を決めコートにしゃがみ込むシフィオンテク(手前)
発音が難解な彼女の名だが、その存在は日本のテニス関係者には、どことなく馴染み深い。
最大の理由は、大坂なおみが公私両面で目をかけている選手だということ。大坂は、初めて練習を共にした数年前から、シフィオンテクを「とても才能ある若手で、友人」と評している。
その大坂の言葉を本人に伝えると、彼女は「友人だなんてとんでもない! ナオミはセレブだし雲の上のような存在だし!」と、興奮と恐縮で顔を赤らめた。
コート上の姿は知的で沈着、コート外では初々しい。それがポーランドの若手選手の印象だった。
混沌の女子テニスに、一本芯の入ったテーマや物語性を通すことは、多くのファン共通の願いだろう。
「大坂なおみ選手とのGS決勝戦での対決が見たいですねー」
「2020全仏の活躍は本物かどうか、また(アシュリー・)バーディ、大坂なおみ選手との対戦を観たい」
シフィオンテクと大坂なおみに、その役目を望む声は多い。
ドミニク・ティーム(オーストリア)
1993年9月3日生まれ。テニスコーチである父親の手ほどきで、幼少期からラケットを握る。2018年の全仏OPで初めてグランドスラム決勝に進出。翌年の全仏、2020年の全豪の準優勝を経て、同年全米で悲願のタイトルを掴み取る。自己最高位3位。
イガ・シフィオンテク(ポーランド)
2001年5月31日生まれ。パワーと戦略性を兼備するオールラウンダー。幼少期から常に国内のトップジュニアだったが、本人は学問の道も視野に入れ、プロ転向後も「2年で結果が出なければ大学進学」と決めていたほど。
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