「過去を振り返って、きっとこれだ!って自分の中の謎が解けた感じがしたんです」
波形純理(写真中央)からそう連絡をもらったのは、イップスについて取材した数日後のことだった。
波形は、長くトス・イップスに苦しめられてきた選手である。
イップスとは、それまで出来ていた動きが突如として、筋肉の硬直などにより支障をきたす現象。過度な反復練習や精神面などが理由としてありえるが、原因が判然としないことも多い。
波形が襲われたのは、トスを上げようとすると、人差し指と中指が意志と無関係に動く症状である。だから彼女は指先を使わず、トスを上げる手法を模索してきた。
そして発症から9年経った今も、完全に克服したとは言えない。
その波形に、最初にイップスについて話を聞いた時、彼女は原因を「初めて日本代表に選ばれたプレッシャー」だと述懐した。
ところが……その後、彼女は改めて“始まりの時”の記憶に深くメスを入れたという。
それは今まで「考えたら、もっと酷くなるから」と避けてきたこと。
だが「本当に代表が原因だったのかな? 補欠で急きょ選ばれたから、そんなに重圧も感じてなかったはず」と考えた時、異なる物語が見えてきた。
「あの頃は結果が欲しくて、今思えば無理をしてた。腰など身体中に痛みがあったのに、痛み止めをサプリのように常時飲んで試合に出てたんです」
その姿は、他者の目には異様に映っただろう。だが疾走感の最中に居た彼女は、「自分がおかしいと気づいていなかった」。
そんな彼女に身体が送った、「スローダウンすべき」という警鐘――それこそがトス・イップスだったというのが、彼女の中で「解けた謎」だ。
10月末の全日本選手権での波形。スピンを掛けた重いショット打ち込みネットに出るプレースタイルを、新たに志向している
「このことに気づいてから、練習でもトスが安定してきたんです」と、波形は声をはずませる。
まだ試行錯誤は続くだろうが、問題と正面から向き合ったことで、方向性が見えてきたという。
その彼女がツアーが再開した時、どんなプレーを見せてくれるのか?
それが、今から楽しみだ。
波形純理(なみがた・じゅんり)
1982年7月5日生まれ、埼玉県出身。171cmの長身と柔軟性を生かしたストロークが武器。今年はコロナ禍の中で練習環境を変え、新たな技術習得に励みながら、来季の再躍進を目指す。
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