群雄割拠が進む車椅子テニスの世界で、“ウィルチェアーのロジャー・フェデラー”の異名を取るアスリートがいる。
それが、国枝慎吾。9月に開催された全米オープンを制し、グランドスラム単複合計45回優勝のギネス記録を樹立したばかりの、まさに生きる伝説だ。
彼のテニスをコートサイドで見ると、ショットの迫力やチェアのスピード感に圧倒される。
とりわけ驚かされるのが、サーブだ。
撮影:内田暁
上半身をしならせサーブを打つと、軋むような金属音と共にチェアが跳ねる。
その姿にかつて錦織圭も、「チェアが揺れて足元が不安定な中で、あれだけ強いサーブが打てるのは凄い体幹の強さ」と驚嘆したほど。
強烈なサーブから、速いタイミングでボールを捉え広角に展開する攻撃テニスこそ、国枝が車椅子界に起こした革命だ。
その革命後の世界で今、後進たちが王者を倒さんと一層攻撃に磨きを掛けている。今大会のシングルス準決勝で、国枝を破ったヨアキム・ジェラール(ベルギー)も、まさにその一人。
「シンゴに勝つには、とにかく攻撃的に行く」との決意を実践し、満面の笑みを浮かべた。
一方で国枝は、「今日はサーブが良くなかった」と唇を噛む。
「この悔しさも忘れかけていたので、負けたタイミングとしては悪くない。負けた時こそ、テニスも変えることができる」
誰よりも貪欲な絶対王者は、東京パラリンピックも見据え、さらなる進化を自身に誓った。
国枝慎吾(くにえだ・しんご)
1984年2月21日生まれ、東京都出身。小学6年生の時に車椅子テニスに出会う。2008年北京パラリンピックで単金メダル、複銅メダル獲得。翌年には国内初の車椅子テニスプロ選手となる。2016年に肘にメスを入れ復帰後も苦しい時期を過ごすが、2018年には世界ランキング1位に返り咲いた。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】