夜の帳が下りるフレンチオープン会場に、黙々とストレッチやダッシュで身体をほぐす少年・少女たちの姿が――。
彼らは、これから試合のコートに向かう「ボールキッズ」。
選手さながらのウォームアップをこなし、コート上の動きをイメージトレーニングする姿は、プロ意識とでも呼びたくなる真剣味をまとっていた。
ボールパーソン(年齢制限がない場合はこちらの呼称)の選考過程はどのグランドスラムも厳しいが、フレンチオープンは関係者たちが「我らこそ世界一」と誇るほどに厳格だ。
コロナ対策で一部コートはボールキッズの人数も減少。求められる運動量も例年より増えた
年齢は11歳から15歳が基本で、身長は175cm未満。視力が良いことも求められる。
年齢は他のグランドスラムに比べやや低め(全米は上限なし)。身長の上限規定まで設けているのは、この大会くらいだ。
それらの条件を満たした3000人ほどの応募者は、まずは国内各地域で行われる選考会に参加。ここでは敏捷性や走力などの体力・運動能力の測定に加え、テニスルールの知識も審査される。
その一次審査をパスした少年・少女たちを待ち構えるのが、5日間の合宿だ。ボールを拾い、走り、正確に狙った場所へ転がすことができるかなどの能力が、スタッフにより見定められる。
それら厳しいトライアウトをクリアし、最終的に伝統のローランギャロスの赤土を踏むことを許されるのが、250人の精鋭部隊。ただ今大会では新型コロナ対策として、その後、20人が落とされることとなった。
今年のローランギャロスは、時期が新学期と重なっているが、選ばれし少女の一人は「ここに来ることに迷いはなかった」と誇らしげに笑みをこぼす。
初夏ではなく秋の開催となった今大会は寒く、またマスクの着用も必須の中、流麗かつ規律正しい動きでボールを選手に供給するキッズたち。
ちなみにロジャー・フェデラーも、初めてツアー大会の舞台を踏んだのはボールキッズとして。
もしかしたら将来、彼らの中から新たなスターが生まれるかもしれない。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】