「本戦と予選、山上さんはどっちのワイルドカード(主催者推薦枠)が欲しい?」
元世界4位の伊達公子が、13歳の少女に向き合い真摯に問う。
山上夏季は、伊達が昨年5月に発足した“伊達公子×YONEX PROJECT”の一期生。世界で戦える選手の育成を志し、伊達自らが選出した、4名の15歳以下ジュニアの一人である。
コロナ禍の難しい状況下ながら、感染対策にも気を配りつつ、プロジェクトはこの1年強で7度の合宿を実施。それ以外にも伊達自身、メンバーや家族と定期的に連絡を取って状況を確認しているという。
その4名の選手たちによる“ワイルドカード選考試合”が、先日都内で行われた。出場権を得られる大会は、12月上旬に愛媛県で開催される、国際テニス連盟公認のジュニア大会。この大会そのものが、伊達が“ジェネラル・マネージャー”を務めて立ち上げたものだ。
伊達プロジェクトの特徴として目を引くのは、選手と伊達の対話の長さである。
プロジェクト一期生中最年少の山上(右)に、じっくり語りかける伊達
それも伊達が伝えるばかりではなく、選手に問いかけ話をさせることが多い。
その理由を伊達は、「ヒアリングを長めに取って、本人の口からどんな状況であったのか、何を目標にいつを目指しているのかを話してもらった」と言う。
コロナ禍のため、練習環境や試合参戦状況も選手によって千差万別。モチベーションや目標も異なってくるなか、それらを口にさせることで自覚を促すのも、伊達の狙いだ。
今回のWC選考会で山上は、メンバー中最年少ながら2勝1敗と健闘。
その結果以上に伊達が評価したのは、山上の成長速度と、試合でも物怖じしない気持ちの強さ。
伊達に「どちらのワイルドカードが欲しい?」と問われた山上は、「本戦」と即答した。
「こんなチャンスは二度とない。出るからには優勝を目指したい」と13歳は明言する。
オフコートでも自己表現できる主体性――それもまた伊達が、ジュニア選手に求める能力だ。
(12月上旬に開催される国際ジュニア大会もレポート予定です)
伊達公子(だて・きみこ)
1970年9月28日京都府出身。世界4位に達するも1996年に26歳の若さで引退。だが12年後に電撃復帰を公言すると、39歳の誕生日前日にWTAツアー優勝。歴代2番目の年長優勝者となった。2017年の2度目の引退後は、ジュニア育成や解説者として活躍中。
山上夏季(やまがみ・なつき)
現在中学1年生。幼少期は空手に打ち込み、小学1年生時に国際大会での優勝経験もある。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】