彼女の名は「プロチーム」のメンバー表にあった。
奥脇莉音。
サウスポーの利点を生かした攻撃を武器とする奥脇。この1年ほどで急成長を見せた
4月中旬に千葉県柏市で開催された、新規のテニスイベント“橋本政昭杯”。
日本の女子プロ選手に実業団所属選手、さらには大学生と高校生が一堂に会し競う団体戦に、16歳の奥脇は“プロ”として参戦していた。
関東ジュニア優勝などの戦績を持つ奥脇だが、彼女の名が最も広く知られたのは、「伊達公子×YONEX PROJECT(以下伊達プロジェクト)」に選出された時だろう。
元世界4位の伊達が、自ら選んだ少女たちを2年かけて指導するプロジェクト。奥脇は、その第一期卒業生だ。
16歳でのプロ転向は、早い決断のように響く。
実際に最近の日本では、ジュニアで実績を残したのち、18歳でプロ転向するのが主流だ。
ただ本人は「19歳でグランドスラムに出たいので、逆算すると、今から世界で戦わないと間に合わない」と覚悟を明言した。
そのように思った背景には、常に「世界」を掲げてきた伊達公子の薫陶、そして新コーチの方針もある。
昨秋から師事し始めた川原努コーチは、尾崎里紗をトップジュニア、そして世界70位に導いた実績の持ち主。
ツアーの過酷さを知る彼は、攻撃一辺倒だった奥脇のフォアに多くの回転を加え、頭脳に戦略性を植え込んだ。
その取り組みの成果の一つが、昨年11月に愛媛県で開催された、国際ジュニア大会の準優勝。
注目されながら掴んだ結果が、プロ転向の背を押した。
球威は十分。課題は左右に振られた時のフットワークと、それを支えるフィジカル強化
非公式ながらプロお披露目となった橋本政昭杯で、奥脇は19歳の坂詰姫野に完敗を喫する。
フォームを改善したフォアは安定感が増したが、同時に「フィジカルが全然足りていない」と、課題を再認識した様子。
当面の目標を、「コロナの状況にもよりますが、年内のランキング500台入り」と設定する16歳。
「残された時間が多い訳ではない」と自身を駆り立てる伊達イズムの継承者が、世界のとば口に立った。
奥脇莉音(おくわき・りのん)
2004年12月生まれ。埼玉県出身。サウスポーの特性を生かしたパワフルなショットと、競った局面での勝負強さが武器。2年前に伊達プロジェクトの第一期生の4名に選出され、今年3月で卒業。5月には日本テニス協会へのプロ登録が完了する。
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