参加者リストに「小林雅哉」の文字を見たとき、「まさか、あの小林君?」と目が止まった。
17歳で全日本ジュニアタイトルを獲得し、早稲田大学1年生時に日本学生テニス選手権(インカレ)を制した、かつてのトップジュニアと同じ名前だったからだ。
「今、草トーが熱いんです。レベルも高いし、色んなバックグラウンドの人が集まってますよ」
テニス関係者の知人からそんな言葉を聞いたのは、昨年の初秋の頃だった。
「草トー」とは「草トーナメント」の略称で、テニススクールや有志が主催する非公式大会の総称。
どんな人たちがどんな思いで参戦しているのだろうと、千葉県野田市で開かれた草トーに向かった。
その彼は小柄で、球威だけ見れば、飛びぬけている訳ではない。
だが、いかなる強打も涼しい顔で打ち返す技術とセンスは、自ずと周囲の目を引く。
相手の渾身の強打を、苦も無くストレートに流した時には、ギャラリーから「うわ、きもいショット!」と、あけすけな賛辞が飛んだ。
“あの”小林雅哉に間違いなかった。
前衛の黒いシャツが小林。草トーでは男子ダブルスと混合ダブルスも出場した
今回が3度目の草トー出場だという小林は、2年前に大学を卒業し、現在は実業団の強豪リコーテニス部に属している。
1年生で大学の頂点に立ったときは、「将来はプロに」の声は高まり、本人もその期待に応えたいと思った。
だがその直後から、「自分のテニスがおかしくなっちゃった」。
「プロになるために、今の自分に何が必要なのか考えたとき、今後このテニスじゃ通用しないんじゃないかと試行錯誤してたら、全然勝てなくなっちゃって」
身長170㎝の小林の持ち味は、広いコートカバーと、繊細なタッチを生かしたカウンター。戦略性や駆け引きも武器だ。
しかし、そこから進化しようと攻撃的なテニスに挑んだ結果、本来の持ち味が消えてしまった。
「攻めるテニスが自分でも分かってなかったのか、食い違っちゃって。どこでも攻めるようになり、それでミスばかり増えてしまって」
そんな感じでしたね……と、彼は柔らかく苦闘の日々を総括した。
相手のパワーを生かし、カウンターや配球の妙で戦うのが小林のテニス
プロになったかつてのライバルたちの動向は、やはり気になり追っているという。
ただそれも、純粋に応援する気持ちからで、ありえたかもしれない「プロの自分」を重ねることはない。
テニスは好きですか?――その問いに間髪入れず、彼は「はい、好きですね」と即答した。
「今は楽しんでいるんで、いい感じです。プロにならなくても、こんだけ楽しくやっていたら良いかなって」
肩の力が抜けた声で、「ふふっ」と笑う。
仲間の声援を受け、しなやかに放つ柔らかな打球が、その想いを体現していた。
小林雅哉(こばやし・まさや)
1997年9月、埼玉県出身。テニスを始めたのは小学6年生時と遅めだが、高校3年時に全日本Jr.18歳以下優勝、全日本選手権3回戦進出などの実績を残し注目される。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】