試合中に、選手がメモや言付けと共にラケットをボールパーソンに手渡した時、彼らが向かう先は決まっている。
ストリンガーズ・ルーム。
そこには、ラケットのフレームに「糸=ストリング」を縦横に張る、20人ほどの職人たちが常時控えている。
ボールを捉える感覚を何より大切にする選手にとって、ラケット面とは、手のひらの延長だ。
その触覚を決めるのが、ストリングの張り具合。
ピンと張って板のように硬くするか、あるいはトランポリンのような弾力を生むか?
ストリンガーはそれらの求めに応じ、面を編んでいく。
さらに選手は試合中でも違和感を覚えると、冒頭に触れたように、伝令を使い新規に張ってもらうこともある。
また、フレームに鉛のテープを張って、微妙なバランス調整をするのもストリンガーの仕事だ。
今年の全豪オープン公式ストリンガーたちに伺ったところ、要望は選手によって千差万別。
ただ強くなっていく選手には、その過程でリクエストにも、試行錯誤の変遷が見られるという。
例えば大坂なおみは、ウィム・フィセッテが新コーチに就任した昨年から、縦糸と横糸で張りの強さを変えたり、バランス調整のリクエストが細かくなったそうだ。
ちなみに今大会以降の彼女のラケットには、目に見える変化が現れるはず。
それが、フレームの内側に描かれたイラスト。既存するカンガルーのシルエットの上に、全豪二度目の優勝を示す数字が刻まれることになる。
さらに今後も、グランドスラムタイトルが増えるたび、新たな数字やイラストが加わるだろう。
余談になるが、カンガルーが全豪、自由の女神が全米の優勝を示す。
全仏とウィンブルドンは何になるのか……予想するだけで、ちょっと楽しい。
<関連記事>
大坂とコーチの以心伝心
全豪Vスピーチに見る、大坂の成長
【内田暁「それぞれのセンターコート」】