「まずはジェニファーに、本当におめでとうと言いたいです。(2020年の)全米オープンの準決勝で対戦して以来、私はみんなに『彼女にはこの先も苦労させられるはず』と言ってきたんだけれど、やっぱり私は正しかったわ!」
優勝トロフィーを抱く大坂が、準優勝者のジェニファー・ブレイディに笑いかけると、観客から笑い声と拍手が起きた。
その後も彼女は、テレビを見ているだろうブレイディの両親や友人たちにまで労いの言葉をかけ、そして自身の陣営に、最大級の謝意を述べる。
セレモニーで「最後に、でも最も伝えたいことは、ファンのみなさん、来てくれてありがとう」と謝意を述べる大坂
誰もが、笑みを浮かべ耳を傾けるそのスピーチを聞きながら、彼女が初めてツアー優勝をした時のことを思い出していた。
それは3年前、2018年の米国カリフォルニア州で開催されたBNPパリバオープン。
クリスタル製の優勝トロフィーを眺めつつ、マイクの前に立った彼女は、開口一番「Hello, my name is Naomi Osaka」と言ったのだ。
直訳すれば、「こんにちは、私の名前は、大坂なおみです」。
優勝者の自己紹介から始まる前代未聞のスピーチは、「えっと……何を言えばいいんだっけ? あっ、そうそう、スポンサー! ありがとうございます!」といったドタバタのうちに、なんとかゴールまでたどり着く。
だがその初々しさも、彼女の足跡を思えば、無理からぬことだった。14歳からプロ大会に参戦していた大坂にとって、何しろこれが下部大会を含め、初めての優勝だったのだから……。
それから3年。
大坂はツアー7勝をあげ、そのうち4つがグランドスラムという、異常なまでに豪華なトロフィーリストを誇る。
今回の全豪で披露した、急激に成熟度を高めるスピーチ――それもまた、テニスプレーヤーとしての彼女の、成長速度の証左だった。
<こぼれ話>
実はスピーチの冒頭で、ブレイディに「ジェニーとジェニファー、どっちで呼ばれたい?」と確認し、ジェニーと返答されたのに「ジェニファー」と呼んでしまう珍事が発生。
後に映像を見てそのことに気付いた大坂は、「ジェニーって呼んだと信じ切っていたのに。本当にごめんなさい」とツイッターで陳謝。まだまだ伸び代たっぷりです!
大坂なおみ(おおさか・なおみ)
1997年10月16日、大阪市生まれ。米国NY州に移った4歳の頃から本格的にテニスを始める。2018年に全米OPを制し、翌19年の全豪OP優勝で世界1位にも座す。昨年9月に再び全米を制すると、4ヶ月後の全豪オープンでも優勝。世界ランクも2位に上昇させた。
大坂の新たな武器とは
大坂を物語る「2つの異質なセレモニー」
【内田暁「それぞれのセンターコート】