テニスをテレビで見たり、大会会場に足を運んだことがある人ならば、「トーナメントディレクター」や「スーパーバイザー」、あるいは「レフェリー」という言葉は耳に馴染があるのではないだろうか。
いずれも大会運営の中核を成す、絶対に欠かせない存在。
ただ表舞台に出ることは稀なため、何をしているか知っている人は少ないかもしれない。
かく言う自分も、そんな一人だった。
「レフェリーは、競技に関する責任者。スーパーバイザーはレフェリーのお仕事に加え、トーナメントディレクターと相談しながら、大会を盛り上げるポジションです」
おだやかな笑みを浮かべ教えてくれたのは、日本唯一の国際レフェリー有資格者である、松野えるださん。
ITF公認の国際大会の多くでスーパーバイザーとして活躍する、この道の第一人者だ。
その松野さんがスーパーバイザーを務める大会の一つに、ITF賞金総額$25,000の浜松ウィメンズオープンがある。
この大会のトーナメントディレクターは、市内のスポーツショップオーナーの青山剛氏。松野さんとのタッグは、10年近く続いている。
今季限りで引退を決めていた井上雅選手に、引退セレモニーで花束を贈呈する松野さん。「引退する選手の試合を見ると涙ぐんでしまいます」と、選手に家族のように寄り添う
トーナメントディレクターの主な仕事は、スポンサーを集め、会場や出店するショップ、ドロー数や大会推薦枠を与える選手を決めることなど。
ゆえにトーナメントディレクターの理念や意匠は、それぞれの大会固有のカラーを決める。
浜松大会のカラーは、松野さん曰く「ディレクターと選手の距離が近く、見に来て下さる方が喜ぶように考えられた大会」だ。
参戦選手の多くがレッスンイベントに参加するのも、その一環。
それが選手の負担にならないかの判断は、スーパーバイザーにゆだねられる。このあたりの実現は、両者の阿吽の呼吸あってこそだ。
時に自らハンドルを握り、コート整備をすることも。選手もファンも安全で満足できる大会を作ることが、青山氏の信念だ
ファンを喜ばせたいというディレクターの意向は、多くの大会が未だ無観客の今年の日本のテニス界において、有観客を実施したことにも克明に投影される。
前売りチケット制のみを採用した、観客のコントロール。
メインコートに囲いを新設し実現したゾーニング。
すべての観客とイベント参加者に義務化した、開幕2週間まえからの検温。
それらを導入したうえで、メインコートの試合はライブストリーミングで放送した。
さらに青山氏は、自分たちが実践した手法や結果をレポートにまとめ、他大会のトーナメントディレクターたちにも公開したいという。
「うちだけがやったのでは意味がない。この規模の大会でも、これだけのことができるということを示したい」
自身が手掛ける大会だけでなく、日本のテニス界そのものに一つの道を示したい——それが、「Director=方向性を示す者」の願い。
そしてその願いに寄り添うのが、「Supervicer=指導者」の志しだ。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】