赤く染まる北側のゴール裏には、いつも目がいく。スタンド側にいた記憶が消えることはない。
埼玉で生まれ育った髙橋利樹は柔和な笑みを浮かべ、懐かしそうに振り返る。
「子どもの頃、僕がいたのは、バックスタンド寄りの上付近ですかね。当時、僕の父親たちと一緒に応援していた人たちは、今も同じ場所にいます。埼スタでは毎試合、僕の名前入りのフラッグを掲げてくれているので、試合後には手を振っているんです」
10月4日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24のグループステージ第2節・ハノイFC戦は、その思い出深い『北側』の目の前で大仕事をやってのけた。
1点リードで迎えた16分、左サイドからのクロスボールをトラップした相手DFの一瞬のスキを見逃さなかった。
ファーサイドから猛然とプレス。相手がクリアする前にボールを突き、ファウルを誘発する。一時はシミュレーションで警告を受けたものの、VARでイエローカードは取り消され、PKの判定に。まさにハードワークを売りとする髙橋の真骨頂だった。
9月の連戦では途中出場が多く、本人もこの試合で先発に起用された意味を理解していた。
「疲れている味方選手が多いと思ったので、チームのために走ろうと思っていました。前からのプレスは自分の特徴でもあるので」
そして、浦和レッズでの成長が垣間見えたのは、埼玉スタジアムでの自身初ゴール。小泉佳穂のパスをペナルティーエリア内で受けた瞬間、シュートブロックに来る相手が見えたという。そこで落ち着いて利き足の右足で切り返し、丁寧に左足でコースへ流し込んだ。
「ここ最近、右サイドであのようなシチュエーションのトレーニングをしていたんです。練習どおりでした」
髙橋にとっては、うれしいACLでの初得点。ただ、それ以上に幼少期から通ってきたスタジアムで決めた一発に感慨を覚えていた。
「埼スタで点を取れたことが何よりもうれしい。これからも、埼スタでどんどんゴールを重ねていきたいです」
自然と声も弾んでいた。9月24日のガンバ大阪戦ではリーグ戦初ゴールをマークし、波に乗る。
昨季まで所属したロアッソ熊本ではセンターフォワードとしてプレーしてきたが、現在の主戦場は主に右サイド。キャプテンの酒井宏樹に「サイドでもFWでも自分らしいプレーを出せ」と背中を押され、すでに吹っ切れているようだ。
「試合ごとに成長を感じています。まだ細かいミスはありますが、修正してチームにもっと貢献していきたいです。まだまだ、僕は立場を確立できていません。得点、アシストと目に見える結果を残していかないと」
シーズン終盤、持ち場を移した25歳のストライカーが貴重な戦力になりつつある。
(取材・文/杉園昌之)
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