大卒4年目を迎えた25歳。6月11日、J1リーグ第17節の横浜FC戦で77分から途中出場し、念願のJ1デビューを果たした。試合後、2日間のオフで気持ちをリフレッシュさせた髙橋利樹は、すっきりした顔で振り返った。
「J1デビューに関しては、そこまで遅くなったという感覚はないですね。僕は大学時代から小さな結果を積み重ねてきたタイプ。自分のできることをこなし、少しずつ評価を上げてきたので」
国士舘大学時代は無名に近く、プロキャリアはJ3からのスタート。それでも、確実にキャリアアップしてきた自負がある。
昨季はJ3からJ2に昇格したロアッソ熊本でキャリアハイの14ゴールをマーク。ストライカーとして自信を深め、今季、満を持してJ1の舞台へ。
「キャンプが始まる前は、開幕戦からスタメンでバリバリ出てやるぞと思っていたんです。レッズでのリーグ戦デビューは、想像していたよりも遅くなったと思います」
チームにフィットするまでに時間を要し、思わぬアクシデントにも見舞われた。
3月8日、YBCルヴァンカップ ・グループステージ第1節の湘南ベルマーレ戦で先発出場の機会が巡ってきたものの、開始15分で負傷交代。レモンガススタジアム平塚に駆けつけたレッズのファン・サポーターがざわつくなか、表情を歪めたまま担架でピッチの外へ運ばれた。
昔からレッズを応援する両親もスタンドから見守っていたが、試合に戻ることはできなかった。診断結果は右ハムストリングの肉離れ。
「開幕から試合に出場できないなか、ようやく掴んだチャンスでした。『絶対にやってやるぞ』という気持ちでピッチに入っていたんです。それなのに自分のプレーをほとんど出せないまま、終わってしまって……。悔しくて、情けなくて、不甲斐なかった。自分自身に腹が立ちました」
安静にじっとひとりの時間を過ごしながら、冷静に自分と向き合った。いつまでも負の感情を引きずるわけにはいかない。
「気持ちを切り替えてやるしかない」と自らに言い聞かせ、チームスタッフから送られてきた自分のプレー映像をスマートフォンで再確認。浦和加入後のトレーニング、練習試合など、すべてチェックした。
「あらためて、自分の足りない部分、改善すべきポイントがはっきりしました。今となっては、ケガで離脱していた時期があったから、自分を見つめ直すことができたと思っています」
新たに取り組んだのは、体幹の強化と体のバランス補正。最前線でボールを収める際にいずれも大きく関係してくるという。体の軸がブレてしまえば、安定したポストワークをこなすのも難しくなる。
トレーニングの成果は今、実戦練習の中で実感している。体の芯が強くなったことで、相手に体をぶつけられても、簡単にバランスを崩す回数は少なくなった。
向上心あふれる髙橋は、持久力を高めるために走り方の修正にも力を注ぐ。前線でのハードワークを売りにするFWにとって、体力は生命線である。
そして、最も変化したのはマインドだ。
「ケガをする前は本当に焦っていました。気負い過ぎていたんでしょうね。ミスをしないための選択ばかりしていました。今考えれば、それが逆に空回りして、うまくいっていなかったのかもしれません」
一度立ち止まって考えたことで、初心に返ることができた。失敗を恐れず、自分らしくボールを受けるタイミングを意識し、ゴールから逆算してプレー。今はJ2で得点を量産していたときに近い感覚を感じている。
「昨季までは無意識にできていたんだと思います。熊本時代と今の自分を見比べることで、足りていない部分が整理されました」
サイドからクロスに飛び込み、ワンタッチで決めるゴールは十八番。大学時代にお手本としていた興梠慎三の動きを間近で見て学べることもプラスに働いている。ボールを受ける前のわずかな動きまで目を凝らす。
「本当にうまいな、とつくづく感じます。映像と現場で見るのは違いますね。すごく参考になります。キャンプのときには直接アドバイスももらいました」
ワンタッチゴーラーにとって、出し手との意思疎通は欠かせないもの。特にクロサーとは積極的にコミュニケーションを図り、自らの特徴を知ってもらう。
横浜FC戦で酒井宏樹のクロスにダイビングヘッドで合わせたシュートは、まさに試合前に確認していた形だった。
「宏樹さんからは、こういうクロスを上げたいから、ニアサイドに入ってきてほしいと言われていたんです。僕自身もあの場所に飛び込んでいくのは、得意な形なので伝えていました」
左サイドバックは勝手知ったる仲の明本考浩。国士舘大時代の同期には説明不要。持ち味のヘディングを生かすクロスを待つだけだ。
むろん、ゴールパターンはひとつに限らない。3シーズン在籍した熊本時代はバリエーションを増やすことで、得点数を伸ばしてきた。
相手最終ラインの背後に抜け出す形、自ら持ち込む形など、昨季は複数のパターンからゴールを決めている。レッズでもゲーム形式の練習で意識して取り組んでおり、ゴールへの意欲を燃やす。
「(レッズでは)点を取り続けないと、試合には出られないと思っています。決めるべきところで決めないといけない。シーズン前半は試合に出場できずにチームに貢献できなかったので、後半戦は頑張りたい」
目の前の清水エスパルス戦に懸ける思いは強い。天皇杯、リーグ戦を含めて公式戦では2試合連続出場。FWホセ カンテがギニア代表に招集されてチームを離れ、巡ってきたチャンスでもある。本人も十分に状況は理解している。
「チームとして、個人としても、次は大事な試合になります。自分が出場した試合では、ゴールを決めたい。勝利に貢献するために100%の力を注ぎます。プラスアルファで前線からのプレスなど、求められることは徹底してやっていくつもりです」
アウェイまで駆けつけてくれるファン・サポーターの熱い思いも、ひしひしと感じている。
かつて髙橋自身も父親と一緒に埼玉スタジアムのゴール裏で応援していたひとりである。スタンドとピッチで聞くチャントは、まるで別物。言葉で説明するのは難しいが、はっきりと肌で感じていた。
「本当に気持ちがいいんです。何が違うのかと言われれば、すべてが違う」
勝利に貢献したスコアラーがスタンドから大きな声で名前をコールされることも、髙橋はもちろん知っている。
レッズを見て育ってきたストライカーの胸が高鳴らないわけがない。
(取材・文/杉園昌之)