熱狂的な浦和レッズサポーターの父親に連れられ、物心ついた頃からお気に入りの赤いユニホームを着て、埼玉スタジアムに通っていた。
さいたま市で育った髙橋利樹が、父親と陣取っていたのは熱気が充満するゴール裏。大きな声を張り上げ、夢中で応援したことは深く脳裏に刻まれている。
「埼スタでレッズの試合を観ているだけでも楽しかったのですが、勝ったときに歌う『We Are Diamonds』は気持ちがよかったですね。今でも歌詞は覚えていますよ」
髙橋少年が心を奪われたのは、屈強なブラジル人ストライカーだ。
髙橋自身はボランチでプレーしていたものの、勝負どころでゴールを決め続けるワシントンの背中に憧れを抱いたという。
当時はリーグの優勝争いに絡み、ホームではほとんど負けることはなかった。印象に深く残っているのは、『強いレッズ』。埼スタのピッチを眺めながら、サッカー少年が夢見ることはみんな同じだろう。
「プロサッカー選手になることもそうですが、いつか僕もレッズの選手として、埼スタでプレーしたいなって。周囲にもそう言っていたと思います」
2023年1月6日、埼玉スタジアムで行われた新加入選手記者会見で初めてレプリカではない特別なユニフォームに袖を通すと、感慨にふけった。
「背番号18の下に、自分の名前が入っていましたから。きっと父親も喜んでくれていると思います。(ホームの試合には)毎回、招待するつもりです」
ただ、強い思い入れだけでレッズへの移籍を決断したわけではない。ポジションを争うFW陣の顔ぶれは、国内外で実績を残してきた実力者ばかり。
オランダで活躍してきたブライアン リンセン、アレックス シャルクの外国籍選手をはじめ、今季からベテランの興梠慎三もレンタル先の北海道コンサドーレ札幌から復帰した。
国士舘大学の同期である明本考浩からもレベルの高さは聞いていた。相応の覚悟を持って、国内トップレベルの環境に飛び込んできたという。
「ここでスタメンの座をつかみ、点を取り続ければ、僕が目指している日本代表も見えてくると思いました」
大学卒業後、2020年に当時J3のロアッソ熊本に加入した頃は、漠然とした目標だった。21年まではJ3でプレーし、1年目は9ゴール、2年目は8ゴール。22年は「必ず2桁ゴールを取る」と心に誓い、FWとして自らを見つめ直した。
「それまではワンタッチゴールばかりで10点に届かなかったので、ゴールバリエーションを増やそうと思いました」
クロスにヘディングで合わせる得意の形だけではなく、持ち込んでシュートを打つパターンなど、居残りで大木武監督とひたすらプレーの幅を広げることに取り組んだ。
練習は嘘をつかなかった。初めて臨んだJ2では40試合に出場し、キャリアハイの14ゴールをマークした。
「今までなかった形でもゴールを決めることができたのは大きかったです」
持ち味だったポストプレー、裏への抜け出し、前線からの守備にも磨きをかけてきたが、何よりもゴール数を重ねることでストライカーとして自信を深めた。
J3から駆け上がり、今季はプロ4年目でのJ1初挑戦。1月20日に誕生日を迎えたばかりの25歳は、いまが伸び盛りである。
「やはり、FWは得点ありきで評価されると思っています。レッズでもゴールにはこだわっていきます。『やってやるぞ』という気持ちを持って、浦和には来ましたから。カテゴリーが上がり、レベルも高くなるので、プラスアルファでまだ武器を増やしていきたい」
幸いにもレッズには、良いお手本がいる。J1歴代2位となる通算163ゴールを決めている点取り屋の興梠からは、盗めるものはすべて盗むつもりだ。
かつて大学時代に不振に陥り、苦しんだ時期に友人から勧められ、映像を見て興梠のプレーを研究したこともある。
ボールの収め方、動き出すタイミング、クロスの入り方を学び、いまのベースになっていると言う。
「ゲーム形式の練習をするなかで、あらためて技術の高さなど、肌で感じることはありますね」
沖縄キャンプでは先輩のプレーを参考しつつ、髙橋自身もしっかりアピールしている。マチェイ スコルジャ新体制での初めての練習試合で、さっそくゴール。熊本時代に得点を量産してきた、クロスに頭で合わせる形だった。
「徐々にチームに慣れているところ。監督の求めていることを少しずつできたらと思っています」
フィニッシャーとしての役割は言わずもがな。前線からのハードワークも重要な仕事のひとつ。大学時代に徹底して走り込んできた体力には、絶対的な自信を持っている。スタミナ自慢のチームメイト以上に走り回りたいという。
「アキ(明本)には負けないように頑張ります」
2026年のFIFAワールドカップも視野に入れており、移籍1年目から勝負の年となる。沖縄キャンプから定位置奪取のために全力を注ぎ、ピッチで目に見える結果を残すことを誓う。
「2桁ゴールを目指していきたいです」
意欲にあふれる男の野心は尽きず、ただの数字だけで満足はしない。熱いファン・サポーターが求めているものも理解している。
「レッズは優勝争いをするべきチームです。タイトルに導くようなゴールを取れる選手になりたいと思っています」
かつて赤く染まったゴール裏からレッズのために戦う選手たちの名前をコールしたことは忘れていない。あれから10年以上の歳月が過ぎた。今あらためてピッチに立つ姿を想像すると、思わず口元が緩む。
「自分の名前が呼ばれたり、応援歌を聞いたら、すごくうれしい気持ちになるんでしょうね」
レッズの歴史を肌で知る新戦力は、新シーズンの開幕を心待ちにしている。
(取材・文/杉園昌之)