「初めて埼玉スタジアムのピッチに、しかも先発で立つことができて、これは一生、忘れられないゴールになると思います」
4月19日、埼玉スタジアムで新たなヒーローが躍動した。
YBCルヴァンカップ グループステージ第4節で、湘南ベルマーレと対戦した浦和レッズは、試合立ち上がりの3分に失点を喫した。1点を追いかける状況のなか、同点ゴールをこじあけたのが早川隼平だった。
前半も終わりが近づいた43分だった。GK鈴木彩艶が、武器である精度と力強さのあるキックで前線にボールを送る。ホセ カンテが相手DFと競り合い、こぼれたボールをダヴィド モーベルグが拾って、シュートした。
それを相手GKが弾いたところに、詰めていたのが早川だった。
「カンテが競り合ってくれて、デイヴィッド(モーベルグ)がシュートまで行ってくれて、自分はたまたまそこに立っていただけで、ゴールに入れるだけという感じでした。ボールが来たときは、枠から外せないなと思って、(シュートの)打ち分けだけできれば、決められると思いました」
ゴール前には戻ってきていたDFもいたが、「打ち分けた」と語ったように、その間を縫うように左足でシュートを決めた。
また、本人は「そこに立っていただけ」と語ったが、何より「そこにいた」ことが重要だった。
17歳と4カ月14日——でのJリーグ公式戦初ゴールは、クラブ史上最年少記録である。エスクデロ セルヒオが持つ17歳6カ月28日を塗り替える歴史的なゴールだった。
「記録については知らなかったので、(試合後に)聞いてびっくりしました」と、はにかむ姿は、実に高校生らしいあどけなさを感じる。
その一方で、すでに4月5日の川崎フロンターレ戦で今季初出場を飾っていたとはいえ、初先発、しかも埼玉スタジアムでのデビュー戦ということを感じさせないくらいプレーは堂々としていた。
「(スタメンについては)試合当日のミーティングで言われました。スタジアムに着くまでは緊張していましたが、スタジアムに着いてからはワクワクのほうが大きかったです」
緊張を解いてくれたのは、一緒にプレーした先輩たちだった。
「みんなが、緊張するなよ、堂々とやれと声を掛けてくれましたし、みんながボールに触らせようとしてくれました」
なかでも浦和レッズユースの先輩である荻原拓也が、試合前に掛けてくれた言葉が大きく背中を押してくれた。
「(荻原とは)小学1年生のときから関わりがありました。その拓也くんから『緊張するなよ』『どんどんやれ』って声を掛けてもらって、そのときから緊張がワクワクに変わっていったのかなって思います」
目立っていたのは得点シーンだけではない。26分には右サイドバックの馬渡和彰からのクロスが流れたところに走り込むと、左足でシュートを狙った。
それだけではない。相手と相手の間を意識したポジショニングで、ボールを受けては仕掛け、またスペースに走ることで相手のマークを引き連れ、他の選手にプレーする時間と空間を与えていた。
「やれたシーン、やれなかったシーンを含めて、もっと成長していかなければいけないと思いました。やれたところは、自分がボールにかかわりながら、足元で受けることができたところです。でも、守備のときの立ち位置や、DFの裏に抜ける回数、スピードといったところはまだまだだなって感じました」
73分にピッチをあとにしたときも、初ゴールに浮かれる様子は微塵もなかった。
「1点取ることはできましたけど、他にもチャンスはありましたし、自分がチャンスをつぶしてしまったところもありました。自分がピッチをあとにしたときは1-1でしたけど、自分が試合に出ている間に勝ち越せなかった悔しさを思っていました」
自身の初ゴールに喜ぶよりも、チームの勝利に目を向ける姿勢も頼もしい。
ルヴァンカップは、J1リーグ、天皇杯と並び、国内3大タイトルのひとつだが、ニューヒーロー賞が設けられているように、若手選手の登竜門としても知られている。
2021年に同賞に選ばれたのが、浦和レッズアカデミー出身の鈴木彩艶だった。彼のキックからチャンスが生まれ、早川が得点するシーンを見て、「次はお前の番だ」というメッセージにも見えた。
「ファン・サポーターの後押しもアウェイとはまた違いましたし、ホームは特別だと感じました。そのファン・サポーターを沸かせる回数を持って増やしていけるようにしたいです」
荻原しかり、彩艶しかり。チームの遺伝子だけでなく、浦和レッズアカデミーの遺伝子も着実に受け継がれている。
(取材・文/原田大輔)
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