これほど、闘える男だったのか。陽気なドリブラーというだけではなかったのか。
最近の練習場で見せるエゼキエウのプレーぶりを見て正直、驚きを禁じえない。
強度の高い守備。球際の厳しさ。鋭く素早いプレス。猛烈なスピードを見せ付けるフリーランニング。
「ボールが来ればドリブル」を繰り返し、自滅していた1ヶ月前とは明白に違う。
10月17日、神戸戦前日練習で、沢田謙太郎ヘッドコーチの指示に耳を傾けるエゼキエウ
「エゼは積極性が出てきたし、守備もセンスがある。練習後のケアも怠らなくなった」
沢田謙太郎ヘッドコーチも、彼の意欲と自覚を高く評価する。
エゼキエウを変えた「何か」は明白だ。愛の力である。
1月に結婚した新妻が新型コロナウイルス感染拡大の影響で来日が遅れに遅れた。この現実が彼を孤独に追い込んだ。
「練習から家に戻っても、彼女はいない。誰もいない。寒さが身に染みる中で、食事もとらないといけない。だけど、緊急事態宣言の時期とも重なり、外食もままならない。食事はコンビニばかりで、体重は4キロ減ってしまった。自分が何のために広島に来たのか、わからなくなったこともあったんだ」
しかし10月2日、愛妻がようやく広島に。もう、1人じゃない。愛妻のつくるカルボナーラに、彼は歓喜した。
「今はずっと一緒にいるんだ。この間は日本の寒さをしのぐために、一緒に服を買いに行ったんだよ」
カウンターの場面を設定したトレーニングで、エゼキエウは抜群のスピードを見せ付ける
人間はいったい、何のために働くのか。
夢のため。生活のため。欲望のため。
だが、最大のモチベーションとなるのは、愛する人のためだ。
エゼキエウの9カ月間にわたる苦しみと愛妻来日以降の急上昇を描いた曲線が、その証明である。
10月18日、対神戸戦。先発したエゼキエウは45+3分、レアンドロ・ペレイラのゴールに繋がるボール奪取に成功。
スタンドから愛妻が贈る愛の力に支えられ、ブラジルからやってきた青年は、ヒーローになった。
エゼキエウ・サントス・ダ・シルバ
1998年3月9日生まれ。ブラジル出身。MF。ブラジルの名門で本田圭佑がプレーしているポタフォゴの育成組織でサッカーを学び、トップチームでもレギュラーとしてプレー。2020年、初めての海外移籍として広島を選んだ。妻・ジュリアナさんと日本の名所を訪れたいと希望を語る。
【中野和也の熱闘サンフレッチェ日誌】