鮎川峻は孤独に耐えられる19歳だ。
一人ぼっちで、チーム内で浮いているというわけではない。いつも、先輩たちの間でニコニコと笑っている。
だが、自分から積極的に何かを話したり、大きな声を出したりするタイプでもない。
居残り練習では、いつも一人だ。誘われれば、仲間たちと一緒にボールを蹴るが、最後は結局、一人になる。
黙々とボールを蹴り、ボールを拾い、そしてまたボールを蹴る。そうやってチームナンバーワンの練習量を確保する。
「僕、一人でも平気なんです」
鮎川は笑う。
「というか、一人の方がやりやすい。誰かに見られながら練習するのって、なんか好きじゃないんです。プライベートでも、一人でいいんです、僕は」
その言葉を聞いて、あるレジェンドを思い出した。
森﨑和幸である。
自らの動きでロングパスを引き出した鮎川峻(23番)。ボールは相手に奪われたが、すぐに切り替えてプレスをかけ、パスミスを誘って柏好文のゴールを引き出した(2月14日・山形戦)
広島史上最多のJ1・J2通算502試合出場を果たした名ボランチは、同じ広島で活躍した闊達な双子の弟・浩司と違って、物静かで近寄りがたい雰囲気を持っていた。
人を自ら遠ざけるタイプではないが、「僕は一人で大丈夫だから」と何度も口にしていた。
サッカー選手に限らず、多くの人々にとって孤独は苦しい。自分の想いとしてはAだとしても、一人になるのが怖いから周りが選択したBを自分も選ぶ。
同調する傾向が多いこの社会で、森﨑和幸や鮎川峻のように孤独に耐えられる個性は珍しい。
FWだけでなくサイドバックでのプレーも期待されている鮎川峻。2月24日の山形戦の途中からは右サイドバックで奮闘
「自分がやるべきことをやるだけ。他がどうであっても関係ないです」(鮎川)
その強い想いが、今年の開幕戦での後半アディショナルタイム、強烈なボレーシュートを放ってスタジアムを湧かせた活躍に結実した。
成長のために必要だと思えば、周りに関係なくやりとおす。
森﨑和幸が見せてきた魂を、広島ユースの20年後輩にあたる鮎川峻が、受け継ぐ。
鮎川峻(あゆかわ・しゅん)
2001年9月15日生まれ。愛知県出身。中学卒業時は地元・名古屋U-18からも誘いはあったが、「自立したい」という考えもあり、広島ユースを選択。3年間の寮生活で多くのことを学んだ。昨年は公式戦出場機会がなかったが、今季はJリーグ開幕戦(2月27日・仙台戦)で途中出場し、公式戦デビューを飾った。
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