取材用のマイクの前に立った若者からは、少し緊張感を感じられた。
「紫のシャツ、似合ってますかね」
広島ユースの先輩である川辺駿に挨拶。「お帰り」という言葉を受けた後、やはり広島ユースの先輩・茶島雄介の隣で長沼洋一は準備する(1月18日、自主トレにて)
はにかむような笑顔を見せながら、長沼洋一は言葉を発した。2017年8月以来の広島復帰。照れくさい気持ちもわかる。
「戻ってきて、不安しかないですよ」
広島ユース3年の時、足立修強化部長から「気持ちでアピールしないとプロ昇格の保証はない」と言われても、「俺はプロになれるから。全然できるから」と自信満々。しかしその自信は、早々に挫かれた。
トップチーム昇格こそ果たしたものの、出番は一向に回ってこない。期限付き移籍先の山形や岐阜でも、試合に出られない。
愛媛ではレギュラーを奪えたが、チームを勝利に導けない厳しさを経験した。
そんな悔しさの蓄積は、少年を大人に変える。
ボール回しのトレーニングでも緊張気味(1月18日。左奥が長沼)
「うまくいかないことも、きっとある。そういう時に自分がどう振る舞えるか。そこが大切になってくる」
J2で試合に出ることで「ドリブルでの仕掛けは成長できた」と実感してはいるが、一方でJ1での強度やスピードの違いもわかっている。不安は否めない。
「だけど、楽しみでもあるんです。ユースから育ててもらったからこそ、このクラブで活躍したい。(城福浩)監督に言われたように、自分の強みを出すことだけを考えて、自信をもってプレーしたいですね」
時間がたつにつれてヒールでパスしたり、手を叩いたり。笑顔も出てきた(1月18日)
かつて長沼に苦言を呈した足立部長は「逞しい顔になった」と彼に声をかけた。筆者もそう思う。だからこそ、彼に「紫のシャツ、よく似合う」と声をかけた。
「ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔からもまた、大人の香りがした。
長沼洋一(ながぬま・よういち)
1997年4月14日生まれ。甲府市出身。小学2年生の時にサッカーを始め、その才能が注目を集めた。横浜FMユースからの誘いもあったが「地元から離れた方が頑張れる」と考えて広島ユースを選択。2016年、トップチーム昇格。その翌年から山形に期限付き移籍。以来、岐阜・愛媛と移籍を繰り返し、今年から広島に復帰。かつてはシャドーでのプレーを熱望していたが、今は「与えられたポジションで精一杯やる」とプロ意識を高めている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】