昨年末、読者を対象として実施した「2021年活躍しそうな選手」のアンケートで川辺駿が2位に入った。さすが、この「熱闘サンフレッチェ日誌」の読者はよく試合を見ているなと感じたのは、そのコメントである。
「存在感が段違い、要所での守備や前への飛び出し、推進力などどれをとっても一流」
「試合全体が見えている感じ」
まさに、その言葉どおり。
とりわけ、圧倒的な違いを見せ付けた試合が昨年11月25日の対湘南戦だ。サポーターも
「途中出場でチームの空気をガラリと変えた」
「試合を完全に支配した」
と指摘している。
ボールに触っている時の川辺は、本当に楽しそう。根っからのサッカー少年だ(昨年11月20日のトレーニングにて)
試合は前半から広島の組織が機能せず、0-1とリードされた状況で62分、彼はピッチに入った。
67分、森島司がボールを受けようと自陣に引いてきた。その瞬間、川辺はスタートをきる。
DFが森島についてきたことで相手PA近くにスペースができた。そこを8番は見逃さなかったのだ。
ボールは森島から柴﨑晃誠、ドウグラス・ヴィエイラとつながれ、狙いどおりにスペースを攻略した川辺の足下に。フリーのシュートは、ネットを揺らした。
同点後も彼は圧巻の活躍を見せる。50mドリブル。高い位置でのボール奪取からショートカウンター。スルーパスや抜け出しも湘南を苦しめた。特に88分の決定的なシュートは一瞬、2020年初の逆転勝利も夢想させた。
高い位置に出て左サイドからのパスを受けて展開。球際でも闘って川辺はレアンドロ・ペレイラにパスを出した(11月20日のトレーニング)
ボランチとは攻守のバランスをとる役割ではあるが、川辺は時にあえて、バランスを崩しにかかる。
相手が隙を見せたその瞬間を見逃さず、川辺は走る。湘南戦のようなシーンは彼にとってはノーマルだ。
「自分の特長は3人目の動き」と彼は言う。パスを出す人、受ける人、その後に続いてボールを受けられる場所に動くこと。
パスワークの基本ではあるが、実行するには優れた戦術眼が必要となる。
どのタイミングでどこに動けば、有効か。
それを瞬時に判断できる感覚を彼は持っているからこそ、あえてバランスを崩して動いてもリスクは少ないのだ。
野津田岳人(金髪の選手)にプレスをかけ、その後も相手のボールホルダーに対して適切な距離をとることでパスコースを限定する守備も川辺の真骨頂(11月20日のトレーニングにて)
「復帰1年目の不遇によく耐えてくれた」
とサポーターが言うように、磐田から戻ってきた年(2018年)は本当に苦しんだ。
守備の難点を理由に起用されたのはボランチではなくサイドハーフ。
「攻撃の時は自由に動いていい」と城福浩監督には言われていたが、スタートポジションの呪縛から抜けきれず、プレービジョンも狂わせた。
一時は練習場に行くことすら、辛く感じた日々。
しかし川辺はそこで腐るのではなく、例えば球際の強さを意識して守備強度を改善するなど課題解決に取り組んだ。
復帰2年目、守備の力強さを見せ付けてボランチに定着。3年目はポジションに囚われない動きを会得した。
浅野雄也とはプライベートでも仲がよく、会話もよくかわしている(11月21日のトレーニング)
さらに嬉しいのは、「苦しい試合を勝てるチームになりたい」と前出の湘南戦後に語り、最終節の名古屋戦(12月19日)後に「もっとオフ・ザ・ボールで動く選手が必要」と言ったように、チームの勝利について言及できるようになってきたことだ。
激しい言葉で周りを鼓舞したりはしない。だけどチームのために走り、闘うだけでなく、プレーで周りに「今、何をするべきか」を伝えるようになった。
一昨年、城福監督は「中村憲剛のような存在感が出てくれば」と語っていたが、今季は「川辺なりの表現法でチームを牽引してくれている」と評価。
中村の模倣ではなく「川辺駿」として堂々とリーダーの座をつかんだのだ。
全試合出場は他には森島司だけ。4アシストはチームトップタイであり、ラストパスは森島についで2位(Football Labより)。
しかし、そういう数字よりも「チームを勝たせるという責任感と緊張感を持って、彼はピッチに立っている」という城福監督の言葉が、背番号8にとって最大の賛辞だ。
だからこそ、サポーターは期待する。
「サンフレッチェは、ハヤオのチームだ」と。
アンケートで寄せられたファンから川辺へ、熱い思いの数々
川辺駿(かわべ・はやお)
1995年9月8日生まれ。広島市出身。サンフレッチェ広島ジュニアユース時代は宮原和也(現名古屋)・浜下瑛(現徳島)と中盤を組み、アンカーの位置でゲームを支配した。広島ユース時代は高円宮杯2連覇。2013年、広島ユース3年の時にプロ契約。2015年、名波浩監督(当時)の強い要望によって磐田に期限付き移籍し、J1昇格に貢献。2018年に広島復帰。
【中野和也の熱闘サンフレッチェ日誌】