この度は、アンケートにご協力頂きまして、ありがとうございます。頂いたアンケートを元に「今季、最も印象に残ったシーン」を書こうと思いました。
最初はダントツで1位だった開幕の鹿島戦について書くべきだと考えました。狙いとしていたショートカウンターがはまり、前線の3人がゴールを決めて鹿島に快勝した試合内容は確かに痛快でしたから。
アンケートの2位を記録した10月3日の鳥栖戦もいい。青山敏弘が「この試合でチームが求める正解がわかった」と語った、チームの資産たる試合だったように思いました。
ただ、記事を書くためにアンケートを読み砕いてくうちに、鹿島戦や鳥栖戦のことをサッカー面で単純に書くよりも先に触れなければならないことがある気がしたのです。
アンケートで鹿島戦についてピックアップされた中で、こんな言葉を見つけました。
「声を出して応援できた唯一の試合」
「この試合はサポーターの応援があった」
「声を出して応援できない今は、勝っても盛り上がりに欠ける」
「この試合には観客がたくさんいた」
「今季、唯一エディオンスタジアム広島でサポーターのチャントが響き渡った試合」
「今季、唯一現地参戦できたゲーム」
「早く安心してチャントが歌えますように」
「まだコロナの猛威を感じていなかった頃、密集するB6のたすきの中で3-0という素晴らしい勝利を仲間と喜びあった」
そうなんです。今年、サポーターが歌うチャントがエディオンスタジアム広島に響き渡り、選手と共に喜びあえた試合は唯一、この試合だけなのです。
再開後、「拍手だけの応援が響くスタジアムは新鮮」という主張が報じられることもありました。
確かに、シンとしたスタジアムに拍手、途中からは手拍子も解禁になりましたが、それだけがスタンドに響く雰囲気は、体験したことのないものでした。
だけど、サンフレッチェはずっとリモート応援システムを導入し、事前に録音した歌やチャントを場内に響かせていたのです。
練習再開から9日後の5月29日、エゼキエウはインタビューに呼ばれていないのにマイクの前に立ち、歌を歌った。サッカーができないこと、家族の来日が叶わないことなどにより、メンタル的に苦境に追い込まれていた彼だが、この頃にはようやく、ポジティブな気持ちになれていたという
どうしてだろう。僕はクラブに問合せました。
「選手たちの要望なのです」
え?そうなの?
「歌やチャントがあってこそ、公式戦だと感じられるから」
そうなんですか!!
正直、この言葉は心に突き刺さりました。
手拍子だけの応援が新鮮?いやいや、そうではない。
選手たちは、いつもの年のような、歌やチャント、叫びが混在するスタジアムの空気感こそ、望んでいたのです。
もちろん、サポーターが声を出したり、歌を歌ったりする行為が禁じられていることも、彼らは知っています。
だからこそ、せめて「リモート応援システム」で少しでもサポーターを近くに感じたい。
選手たちのそれが、真意だったのです。
そういえば、アンケートの中には、負けた試合を選んでいる方もいらっしゃいました。
再開後、初めてサポーターを迎え入れたC大阪戦。小雨に打たれながらもサポーターを迎え、言葉をかわす仙田信吾社長の姿も見える
「7月15日の対C大阪戦。負けたけれど、今年はもう試合ができないと思っていた中で、サンフレッチェの試合をスタジアムで見ることができたから」
そう。今季はもうJリーグは、できないのではないか。再開しても、サポーターがスタジアムに来ることはできないのではないか。
アンケートでも「コロナが怖いから今年はスタジアムに行けなかった」という趣旨の言葉がありました。致し方ないと思います。
「病気を持つ高齢者と同居しているので」という言葉にも、胸が締め付けられました。
そんな不安の中でリスタート。2試合の無観客試合の後、5000人という上限があったとはいえ、サポーターがスタンドにつめかけてくれたのです。
試合に向けてトレーニングすることができる幸せ。緊急事態宣言前後は、試合をするという最もシンプルな目標すら、見えなかった
声を出して、叫んで、歌を歌ってサポートしたい時も必死で我慢し、選手たちを言葉で励ましたいという想いも堪え、ただただ、拍手に想いを託して。
簡単ではないのです。それでもサポーターは、きちんと観戦ルールを守りながら、やりきってくれました。全ては愛するチームを守るために。Jリーグを守るために。
「コロナ禍の中、みんなが大変だったのに、サポーターは様々な形で支えて下さった。本当に感謝しかありません」
佐々木翔主将の言葉は選手・クラブの総意。年末に行われたクラブ史上初のクラウドファンディングでは目標を大幅に超える8800万円超の支援が集まり、ブロジェクトリーダーの森﨑和幸CRMは「サポーターの底力を見ました。今度は僕らがお返ししないといけない」と言葉を震わせていました。
チームをずっと追いかける記者の立場から見ても、サポーターがクラブに捧げた愛情には圧倒されました。スタジアムに来てくれた方はもちろん、スタジアムに来れなくてもサンフレッチェのことを思ってくれた方の想いも突き刺さりました。
だからこそ、どうしても祈りたいのです。
来年こそ、いつものようなスタジアムが、戻ってくることを。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】