糸を引くサイドチェンジは、まるで青山敏弘のよう。
東俊希がしっかりとおさめ、森島司を経由して、ドウグラス・ヴィエイラ(ドグ)がゲット。
11月18日の紅白戦で出現した美しいゴールは「試合でこれが見たい」と強く思うほどの質に満ちていた。
その起点となった美しいサイドチェンジは井林章が放ったもの。彼がこんなパスを持っているとは。正直、目を見張った。
井林のパスも東のトラップも、森島のパスもドグのシュートもパーフェクト。試合でもこのレベルのプレーが続けばゴールできる
井林は茶島雄介と並んで、広島でもトップクラスの知性の持ち主だ。
以前、紅白戦で城福監督があえて井林を外して外からゲームを見させ、「イバ、どう思う?」と聞いたことがある。
また指揮官は彼の的確な声による指示を称賛し、「声でプレーできる選手」と評した。
その知性は取材の時も発揮される。
難しい事象でも平易な言葉に置き換え、言葉の組み立ても明快でわかりやすい。
そんな井林だからこそ、今の広島が苦しんでいる「引いてブロックをつくる」守備に対する打開策を聞きたくなった。
先生・井林の答えは、やはり明快だ。
どんな時も落ち着きを失わない冷静さも井林の魅力
「相手を押し込んだ後もボールをしつこいくらいに保持して、何度もくり返して相手の隙を覗うことも一つの考え方だと思いますね。守備側の心理でいえば、ボールをずっと握られると『奪いにいかなきゃ』と考えてしまいがちになるし、そこに隙も生まれますから」
そういえば冒頭にご紹介した井林演出のファインゴールも、相手が構えた守備の前でボールを保持した後に生まれたもの。
なるほど。そういうことか。実に、わかりやすい。
「先発のチャンスがいつくるかはわかりませんが、準備はしています」
城福監督もその能力と好調ぶりを認める知性派、戦闘準備は完了済である。
井林章(いばやし・あきら)
1990年9月5日生まれ。広島県出身。広島皆実高時代は全国高校サッカー選手権で優勝。決勝では旋風を巻き起こしていた鹿児島城西・大迫勇也をマークし、優勝に大きく貢献した。2013年、関西学院大から東京Vに加入。2019年から広島でプレー。J屈指のアニメマニアで、東京V時代はフィギュアの企画開発・製造で知られる壽屋と「フィギュアパートナー」契約を結び、彼がゴールするごとに希望のフィギュアが贈られていた。
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