日本人選手唯一のスーパーウェルター級世界ランカー・井上岳志(いのうえ・たけし)が目を見張る練習をしていた。
「無駄な動きが多いのでシャープに動くこと。今は確実にポイントを取るための右ストレートを強化しています」
サンドバッグ打ちでも、その右ストレートの精度を確かめるように打っていた。
強打を打ってもバランスが崩れず、土台となる体幹が安定している。
猛練習の源泉は、昨年1月の世界タイトル初挑戦にあった。無敗の王者ハイメ・ムンギアをあと一歩まで追い詰めながらもポイントで劣り、判定で惜敗。王者圧勝の下馬評を覆し、海外での評価は高まった。
「世界のレベルを知ることができたので、挑戦できたのはよかったです」。敗戦を意外にもサラリと語るのには訳がある。
世界戦前「他の世界ランカーはバケモノ揃い」と、どこか遠慮がちだった意識が、王者に善戦したことで「俺も通用する」という自信に変わった。
「世界戦を経験してよりボクシングが好きになりました。もう一度、世界のリングに立ちたいと強く願っています」
11月には、2018年全日本ミドル級新人王のワチュク・ナァツ(マーベラス)と10カ月ぶりとなる試合が決まっている。
「久々のリングが楽しみ。世界にアピールするためにKO勝利したい」。重量級で世界に実力を示した井上の試合が楽しみだ。
井上岳志(いのうえ・たけし)
東京都足立区出身。30歳。第37代日本スーパーウェルター級王者、第35代OPBF東洋太平洋スーパーウェルター級王者。現WBOアジア太平洋スーパーウェルター級王者。ワールドスポーツボクシングジム所属。戦績は18戦16勝(10KO)1敗1分。
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