東京五輪ボクシング女子フェザー級で、金メダルを獲得した入江聖奈。
試合直後の会見では「大好きなカエル関係の企業かゲーム関連企業に就職したい」と大学卒業で競技引退の方針を表明し、世間を驚かせた。
取材前に読者から集めた質問にも、率直な問いが並んだ。
将来的にプロ転向して世界チャンピオンを目指さないんですか?
次のオリンピックでもメダル期待できると思います。
競技から退く考えに変化は無いですか?
五輪から1か月が経ち、心境は変わらないのか。直接本人に質問をぶつけてみた。
「大学卒業後もボクシングを続ける可能性は、5%くらいですがあります」。わずかだが、思いに変化があったようだ。
五輪後、競技の魅力を再認識する機会が2度あったという。一つはテレビ中継のゲスト解説として会場に入った、WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ王者・井岡一翔の試合。
「リングの近くにいたので汗が飛び散っているのが見えて迫力もあって引き込まれました」。しかし、プロ入りは否定する。
「8オンスのグローブでヘッドギアもないと倒れる怖さがあります。大学の部活動として競技に向き合っている私は、生活を懸けてやっていく自信がまだありません」
アマとプロは似ているようだが、競技時間や採点基準などルールはもちろん選手の意識も大きく違う。ボクシングだけで生計を立てられるのは一握りで、ほとんどの選手はアルバイトなど掛け持ちしながら続けている。好きだからという情熱だけで、進めるものではない。
総合格闘技のRIZINからオファーがある報道もあったがそれについても「ボクシング界の方々を裏切ってしまうことになる」とキッパリ否定した。
現役続行を意識したのはもう一つのきっかけが大きかったようだ。
表紙だ!!!!!!!!
— 入江聖奈 (@seeenaaa09) August 11, 2021
明日発売の『ボクシングマガジン』ぜひご覧ください🙇♀️
この9月号は家宝にします……。 https://t.co/MTgbLF3vdD
「先日アマの世界選手権の選考会(入江自身は休養のため不出場)でセコンドにつく機会がありました。見てるだけでうずうずして、改めて自分、相当ボクシングが好きなんだな〜と。やめられる気がしなくなってきたというのは少し感じました」
ボクシングは中毒になると言われるがまさにその通りだ。努力が成果に直結して自分自身に大きなスポットが当たる。
「勝った時が何より嬉しい。勝者コールの瞬間は主人公になれるし、ボクシング特有なんじゃないですかね」
まだ20歳と若く、まさに伸び代しかない状態だろう。3年後のパリ五輪こそピークではないだろうか。
「発言を撤回してパリを目指すこともあるかもしれません。ただ、卒業後どこでボクシングをしようと思った時にいいところが思いつかない。だから続ける確率は5%です。何が正解かは今はまだ分かりません」
今秋の世界選手権は欠場し、年内は11月に開催予定の全日本選手権に出場する。
そこでどんなパフォーマンスを見せてくれるか。日本女子初となる偉業を成し遂げてきた彼女の今後に期待したい。
入江聖奈(いりえ・せな)
鳥取県米子市出身、20歳、日本体育大学所属、高校2、3年の全日本女子選手権(ジュニア)連覇、2018年世界ユース選手権で銅メダル獲得。日体大では柔道・阿部詩と同級生。2021年東京五輪では日本代表女子初となる金メダルを獲得した。
関連記事
・入江が持つ、試合で競り勝つ武器とは
・五輪代表・入江聖奈 原点のシャドーボクシングで夢を掴みに行く
・五輪代表・入江聖奈「まだリベンジしたい気持ちも残っている」と語る人生最初の挫折
・日本女子初!五輪金メダリスト入江聖奈 練習でのシャドーに見えた強さの秘密
【木村悠「チャンピオンの視点」】※入江選手のインタビューは続編を順次配信予定です。
トップ画像提供=©FUKUDA NAOKI