決勝でも物怖じせず、戦い抜いた。
五輪ボクシング競技フェザー級・入江聖奈が、日本女子初となる決勝の舞台に立ち、激闘の末に金メダルを勝ち取った。
積極果敢な内容を目の当たりにして、昨年取材時に見たシャドーの記憶がよみがえった。今回の五輪で発揮した入江の持ち味が凝縮されたものだったからだ。
右足を下げる右構えの入江にとって、対した相手に一番近いのは左手。必然的に最も多く使うのは左ジャブとなる。入江のジャブは非常に多彩で、ボディなど上下への打ち分けも巧みだ。
3分3Rの短い時間でポイントを競うアマチュアでは、ボディを打つことは少ない。レフェリーから見て顔への攻撃の方が判定しやすいからだ。しかし、入江はそこに固執せず、東京五輪での試合でも打撃を散らすことで相手にプレッシャーを与えていた。
小学2年の時、漫画「がんばれ元気」の影響でボクシングを志したが、母の猛反対を受け、しばらくジムには入会できなかった。そんな時は一人鏡に向き合い、色々なパンチの真似をして過ごしていたという。
「ボクシングが好きで、毎日どこかでボクシングのことを考えています」。競技を始める前から燃やし続けている情熱と日々の工夫が、彼女に多彩なパンチを身につけさせたようだ。
昨年2月NTCでの日本代表合宿では男子を相手にスパーリングに取り組んでいた。この積極性も持ち味の一つだ
また、左を軸にした組み立てに加え、フットワークを駆使して前後への動きが激しい。積極的に攻撃しつつ、距離感を意識するのも彼女の優れている点だ。
「相手に合わせないで自分のボクシングを突き詰めて勝つ。自分の距離で戦うのと気迫が大事」。まさにそう語っていた通りの試合展開の末、獲得した金メダルだった。
試合後は両手を突き上げ、喜びを爆発させた入江。自国開催の重圧に打ち勝ち、自分のボクシングを貫いた彼女に拍手を送りたい。
入江聖奈(いりえ・せな)
鳥取県米子市出身、20歳、日本体育大学所属、高校2、3年の全日本女子選手権(ジュニア)連覇、2018年世界ユース選手権で銅メダル獲得。日本体育大学では柔道・阿部詩と同級生。
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