フロイド・メイウェザーが、22日に予定されるYouTuberローガン・ポールとのエキシビションマッチに入念なトレーニングで備えていると報道されている。
ローガンはプロボクシングライセンスこそ持っているものの、試合実績はほとんどない。
だが身長15センチ、体重20キロ以上の体格差があることからメイウェザーも万全を期しているのだろう。負けることを極端に嫌う彼らしい。
史上初めて無敗で5階級制覇を達成し、15年の引退までプロ通算19年での生涯成績は50戦全勝。歴代最強の呼び声も高いが、同時に「マネー(金の亡者)」とも呼ばれ、派手な生活、遅刻癖などルーズな面ばかりが目立ちがちだ。
彼はどのようなトレーニングで数々の金字塔を打ち立てたのだろうか。現役時代を知る世界的なボクシングカメラマン・福田直樹氏に聞くと、その知られざる内幕を撮影した写真とともに明かしてくれた。
「メイウェザーは私のキャリアでも一番多く撮影した選手です」
福田氏は08年から世界一権威のある米国の専門誌「リングマガジン」と契約。現地メディアの中でも近い位置でスター選手を取材できた。
だが、「一番多く」と語る理由がもう一つある。異様なまでの練習時間の長さだ。
「毎回驚かされるのが、その練習のハードさと時間の長さ。3時間近くはほぼノンストップで、しかもペースをほとんど落とさずにメニューをこなしていました」
メイウェザーの練習撮影は待ち時間も含めて毎回6時間超に及ぶという。
予定の1時間から2時間遅れで始まることも多く、大半のメディアが終了を待たずに帰っても、福田氏は辛抱強く撮影を続けた。
「特に印象的だったのが、強打をひたすら連発させるサンドバッグ打ち。キャリア終盤は守り主体で、攻めが物足りないイメージを一般的に持たれていたかもしれませんが、そのサンドバッグ打ちは本当に迫力がありました」
運動強度の高いボクシングの練習は通常2時間くらい。倍近い練習量の上、サンドバッグを全力で叩き続けるのは至難の業だ。
ましてや福田氏が撮影していた時期は、メイウェザーが98年に初めて王座獲得してからすでに10年以上経過している。
福田氏は長年追い続けた中でも、最も貴重だという一枚を紹介してくれた。
15年、アンドレ・ベルトとの引退試合の直前に一度だけメディアに公開したスパーリングだ。
メイウェザーのスパーリングは長年「門外不出」で、チーム以外に一切スパーを見せたことがなかった。内容は壮絶だったという。
「スパー自体は本当に手抜きなしでした。鋭い右ストレート、のけぞるようにして打ち込む得意の左フックカウンターで、二人の新鋭パートナーを容赦なくめった打ちにしていました」
抜群の攻撃力、鉄壁の防御、そして尋常でないスタミナ。
「あんなに練習する選手を他に見たことがありません」と、数々の世界王者を取材した福田氏も断言した。
賛否両論のエンターテインメント性がある選手だが、その裏側では人の3倍と言っても過言でないトレーニングの積み重ねと、勝利への執念があった。
最強王者はかつてこう言ったという。
「相手が寝ている時、俺は練習している。相手がアップしている時、俺は練習している。相手が練習している時、もちろん俺も練習している」
ビッグマッチとなると、選手にも大きなプレッシャーが掛かる。そんな中でも、やるべきことに向き合い、負けないボクシングで勝ち続けてきた彼はやはり偉大な王者だ。
この年になってもリングに立ち続ける、メイウェザーがどんな戦いを見せてくれるのか注目だ。
フロイド・メイウェザー・ジュニア
アメリカ合衆国ミシガン州出身。43歳。圧倒的なスピードと超人的な反応速度を持ち、鉄壁のディフェンスで相手を翻弄。史上初めて無敗のまま5階級制覇を達成した。生涯獲得ファイトマネーが1000億円を超えており、史上最も稼いだボクサーとも言われている。
福田直樹 (ふくだ・なおき)
東京都出身。55歳。2001年に渡米しライターからカメラマンに転向。ラスベガスで約400試合を撮影し続けた。BWAA(全米ボクシング記者協会)主催のフォトアワードにおいて、初エントリーから6年連続で入賞し、最優秀写真賞を4度獲得。2012年にはWBC(世界ボクシング評議会)のフォトグラファー・オブ・ザ・イヤーにも選出された。
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【木村悠「チャンピオンの視点」】※写真はすべてⒸFUKUDA NAOKI(09年~15年撮影)