パンチを予見する男――。
カメラマン・福田直樹氏は、ボクシング界でそのように呼ばれている。彼の撮影する写真は、試合の決定的なシーンをほぼ必ず捉えているからだ。
全米ボクシング記者協会のフォトアワードで最優秀写真賞を4度受賞。ビッグマッチの決定的瞬間を何度も撮影し、本場・米国でも高い評価を受けてきた。
福田氏の名声を不動のものにしたのは、当時無敗同士の決戦となったWBA・WBC世界スーパーウェルター級王座統一戦「フロイド・メイウェザーVSカネロ・アルバレス」(2013年)での2枚だ。
両者の顔と勝者・メイウェザー(画像右)の強烈な有効打、そして汗のしぶきが飛び散る様が全て捉えられた完璧な一枚。
そしてもう一方は、アルバレスの顔にメイウェザーが右ストレートをめり込ませた瞬間だ。
撮影場所が固定されるリングサイドで、このような決定的瞬間を捉えることは、カメラが進化した中でも困難を極める。
これらの写真はアメリカ、イギリス、メキシコ、アルゼンチンなどの計6ヶ国のボクシング雑誌で表紙を飾った。
「当時の興行レコードをことごとく塗り替えたメガマッチでの写真です。現地で『この試合のベストショット』と2枚を評価していただきました」
試合撮影に臨む時、福田氏は選手の目線に入り込むという。
「強い選手のコックピットに入る感覚で、相手に注目しています。無防備に前に出たり、フェイントに引っかかったりするタイミングでパンチを打つようにシャッターを切っています」
福田氏はボクシング専門誌でライターとして活動したのち、35歳で家族とともに渡米しカメラマンとしての活動を始めた。
「当時は日本人というだけで偏見もありました。カメラマンとしての枠を取っていたのに入れてもらえなかったり、風当たりは強かったですね」
逆境にもめげず、ジムでの練習や小さな興行に通いパンチのタイミングでシャッターを切る技術を徐々に身につけ、評価を上げて大きな興行でも撮影ができるようになったという。
努力で名声を築いた福田氏を慕う関係者や現役選手は多い。写真好きの5階級制覇王者ノニト・ドネアからは「マスター」と呼ばれ、技術伝授を志願されたほど。
現在は帰国し、日本人ボクサーの写真を世界に広める活動をしている。
最高の瞬間を切り取る、福田氏の写真にぜひ注目してもらいたい。
福田直樹 (ふくだ・なおき)
東京都出身。55歳。2001年に渡米しカメラマンに転向。ラスベガスで約400試合を撮影し続けた。BWAA(全米ボクシング記者協会)主催のフォトアワードにおいて、初エントリーから6年連続で入賞し、最優秀写真賞を4度獲得。2012年にはWBC(世界ボクシング評議会)のフォトグラファー・オブ・ザ・イヤーにも選出された。
【木村悠「チャンピオンの視点」】※写真はすべてⒸFUKUDA NAOKI