ボクシングほど「1敗」が重いスポーツはないかもしれない。
リングの中で孤独に戦うボクサーは、たった一度の敗北で自分の全てが否定されたように感じるものだ。
それまで無敗で世界2階級制覇までたどり着いた田中恒成も、昨年末に井岡一翔という壁にぶつかり挫折を味わった。
「あの敗戦からトレーナーも練習方法も全て変えました」と田中は告白する。
さらなる進化を求め、新トレーナーに元プロ格闘家の村田大輔氏を迎え、大胆にスタイルチェンジを模索しているという。
それはつまり「速さとパンチ力」への執着を見直し、守りのボクシングへと変えていくことだ。
「それまで武器だった攻撃力とスピードを消し、今はガードを強化しています。丁寧に守りと距離感を意識しています」
トレーナーと納得いくまで打ち方やディフェンスを議論している姿があった
2階級制覇を成し遂げたスタイルを迷わず変えたのは、やはりあの男の影響が大きい。「田中恒成に井岡一翔を混ぜ合わせています。わかる範囲で井岡さんのスタイルを取り入れています」
打ち込んでもパンチがダメージに繋がらない――。年末の井岡は田中の予想をはるかに超えたディフェンス能力を持っていた。それまで防御を体系立てて考えていないことを思い知らされたという。
「距離感や当てにくさなど、どういうことをしているかわかった。感覚を言語化できるようになった」。詳細はまだ明かせないというが研究を重ね、目指すべきスタイルに向けて身体を動かせるよう、鍛錬を重ねている。
「大晦日から半年で考え方からボクサーとしてもすごく変わりました。ボクシングの奥深さに気づいたんです」
進化し続ける田中恒成に期待したい。
田中恒成(たなか・こうせい)
岐阜県多治見市出身、26歳、SOUL BOX畑中ボクシングジム所属、元WBO世界ミニマム級王者、元WBO世界ライトフライ級王者、元WBO世界フライ級スーパー王者。戦績は16戦15勝(9KO)1敗。井上尚弥と並ぶ日本最速タイ記録となるプロ8戦目での世界2階級制覇を成し遂げた。
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