プロ11戦11勝の連勝街道を走るWBC世界フライ級ユース王者・畑中建人(SOUL BOX畑中ジム)。
父は元WBC世界スーパーバンタム級王者で、所属ジムの会長・畑中清詞氏。実現すれば日本初となる「親子での世界王者」を目指している。
当然、幼少のことから父親に憧れていたのかと問うと、意外な答えが返ってきた。
「父が世界王者とはいえ、昔はボクシングに興味はありませんでした」
清詞氏が引退した91年当時はまだ生まれていない。記憶のある中で、自宅にいる父の姿からは世界王者の威厳を感じられなかったという。
しかし中学時代、たまたまビデオで現役時代の姿を見たことで考えが変わった。
「普段酔っ払いの父しか見ていなかったので、ビデオを見て本当にかっこいいと思った」
入門を志願するが、家族や周辺からは猛反対にあったという。
「世界王者の父と比べられるし、勝って当たり前と思われる。プレッシャーも普通とは違うと言われてなかなか許してもらえませんでした」
「お父さん」から「会長」へと呼び方を変え、「1日でも走れない日があったらやめさせる」と厳命されて入門を許された。
入門初日はアマチュア経験が豊富で強い先輩といきなりスパーリングを組まれ、ボコボコにされた。しかし、負けた悔しさや恐れよりもボクシングができる喜びが勝り、ますます練習に打ち込んでいったという。その姿勢をついには父も認め、今では強固にサポートしてくれている。
周りからも清詞氏とスタイルが似ていると言われ、本人も自覚がある。
「僕のボクシングは父が原点。左がうまかった。かなり影響も受けています」
父とのミット打ちを見ても左の使い方が巧みだ。距離を取るパンチに加え、近距離での強打も多彩。攻撃と防御のバランスが取れたフットワークは「東海のロッキー」の異名を取った清詞氏と近いものがある。
「建人はスピードとキレがあるし、パンチに手応えもある」。父も贔屓目抜きにして、その実力に一目を置いている。
「必ず日本で初めての親子チャンピオンになるので期待していてください」と建斗。
世界でも未だ5組しか生まれていない「親子世界王者」の偉業達成に期待したい。
畑中建人(はたなか・けんと)
愛知県名古屋市出身、23歳、SOUL BOX畑中ボクシングジム所属、WBC世界フライ級ユース王者。戦績は11戦11勝(9KO)。
畑中清詞(はたなか・きよし)
愛知県北名古屋市出身、54歳、元WBC世界スーパーバンタム級王者、第10代日本スーパーフライ級王者。戦績は25戦22勝(15KO)2敗1分。引退後はSOUL BOX畑中ボクシングジムを開設。
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