再起戦に向け、トレーニングを続ける元3階級王者の田中恒成。
井上尚弥と同じく、わずかプロ8戦目での世界2階級制覇という偉業(日本記録)を成し遂げているが、ある悩みを抱えていたという。
それは自身の知名度の低さだ。
「2、3階級制覇と結果が出て、すごい事をやっているはずなのに何も現状が変わらない。失望感や悲しい気持ちが大きくなり、結果を出せば出すほど自信がどんどんなくなっていった」
今の時代は趣味も多様化している。一昔前は単純に強くなって結果を残せば有名になれたが、そうではない現実に田中は悩んだ。しかし、誰にも言い出せなかったという。
そんな彼を変えたのは大人気のYouTubeだ。
ジムのマネージャーの勧めで、昨年6月にYouTubeチャンネル「田中恒成KOsei tanaka」をスタートした。
当初は戸惑いや不安もあったようだ。
「最初はチャンネル登録者数がたった数百人程度で嫌でしたが、これまで認められたいと思っていたのに努力していなかったので、それに対して努力していこうと決めました」
注力の甲斐あってチャンネル登録者数も、今や2万人を超えた。
最近では、元世界王者達の人気番組『渡嘉敷勝男&竹原慎二&畑山隆則のチャンネル』や、国内のボクサーではトップクラスの登録者数を誇る京口紘人ともコラボし、話題を呼んだ。
ボクシングファン以外からも反響があり、心境の変化があったようだ。
「(当初は登録者が集まらなかった)自分の弱さを認めたら他の人の良さが知りたくなった。すごく周りからいろいろなものを吸収できるようになって、人間としてもボクサーとしても(周りの選手の良いところを吸収できるようになり)強くなった。YouTubeをやって本当によかったです」
かつては「他人には興味がない」と語っていた田中。今では明るい表情で本音を語るようになっていて驚いた。
「(何かを)与えていける存在になりたい。憧れられる存在になってボクシングを発信していきたい」
昨年12月の井岡一翔戦で敗北を喫してから、まだ目指すところは決めていないが焦りもない。
「どれだけ上にいっても満足しない。目指すところが形だけではないことはわかった。今からがスタート。ボクシング以外でも成長を感じていて今後が楽しみ」
競技以外でも活躍の場を拡げ、成長する田中恒成に期待したい。
田中恒成(たなか・こうせい)
岐阜県多治見市出身、26歳、SOUL BOX畑中ボクシングジム所属、元WBO世界ミニマム級王者、元WBO世界ライトフライ級王者、元WBO世界フライ級スーパー王者。戦績は16戦15勝(9KO)1敗。井上尚弥と並ぶ日本最速タイ記録となるプロ8戦目での世界2階級制覇を成し遂げた。
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