今年2月に行われた全日本新人王決定戦。参戦時点で4勝未満の選手で争われ、優勝者は日本ランキングに名を連ねることが出来る。
かつて「世界への最短コース」とも言われ、若手の登竜門でもある今大会で、ひときわ輝いた男がいた。
スーパーフェザー級新人王と大会MVPに輝いた奈良井翼だ。決勝では同じく無敗で勝ち上がった福田星河を、1Rで2度倒す圧巻の勝利を見せた。
ここまで7戦全勝6KOとパーフェクトレコードを叩き出している奈良井は、競技から遠ざかっていた時期があるという。
2019年9月、当時スーパーバンタム級だった奈良井は減量に失敗し、体重オーバーで失格となってしまった。
「当時は普段の65キロから10キロ以上落としていました。ネットで調べた少ない知識で減量していて、最後は食べず、飲まずでも体重が落ちませんでした」
その影響でボクシングへの意欲を失い、ジムに通うのも辞めてしまったという。
「ボクシングをやりたくないし、めっちゃ好きだったのに見たくなくなっていました」
3か月間ほどボクシングから離れていたが、心配したジムの先輩にスパーリングパートナーを頼まれたことで、改めて魅力に目覚め、再起を決意。同じ過ちはくりかえさないと階級を2つ上げた。
ボクシングでは1階級上げるだけで、相手の体格やパワーはもちろん、戦い方も大きく変わってくる。
「(スーパーフェザー級では)いいパンチが当たっても全然効かないし怯まない。初めてダウンをもらってプロの怖さを知りました」
「怖さ」を知って奈良井は変わった。
「倒そうと思うと倒せない。倒そうと思ってないほど倒れる」と試合の中で学んだ
パワーだけでなく、当てるタイミングや角度などを工夫して考えるボクシングに転換したのだ。サンドバッグ打ち練習でもモーションを付けず、相手に悟らせないタイミングで打っている。
その成果もあり今年の新人王戦では、東日本準決勝と決勝、全日本決勝は2R以内に勝利。2階級上げてすぐに圧倒的な力を見せられるのは驚異的な進化と言っていい。
「もっと強くなってランカーでもバンバン倒せるようになりたい」
実力もさることながらまだ21歳、伸びしろも十分ある。今後の活躍が楽しみな選手だ。
奈良井翼(ならい・つばさ)
大阪府大阪市出身、21歳、RK蒲田ボクシングファミリー所属、全日本スーパーフェザー級新人王MVP獲得。戦績は7戦7勝(6KO)。小学生からキックボクシングを始め、高校入学後にボクシングに転向した。
【木村悠「チャンピオンの視点」】