日本、東洋スーパーバンタム級の元王者で世界挑戦の経験もある、33歳、ベテランサウスポーの和氣慎吾。
この日は世界王者を4人育てた葛西裕一トレーナーに指導を仰ぐため、用賀にあるGLOVESジムに足を運んだ。
葛西トレーナーが育てた世界王者は全てサウスポーで、いわば「左を育てるプロ」。和氣が憧れる、同階級のレジェンド・西岡利晃氏も“門下生”だ。
和氣は4月に予定されていた試合が中止。間隔が空き、自分のボクシングを見つめなおす絶好の機会に、葛西トレーナーへ志願した。
感覚的に教えるのではなく、理由を説明しながらの丁寧な指導に大変驚いたという。
「普段やらないことをやって、めちゃくちゃ刺激的でした。理にかなった教え方で納得しました」
この日は基本となるシャドーボクシングのチェックから始まり、実戦的なアドバイスまで多岐にわたって指導していた。
特に印象的だったのはミット打ちだ。
バランスやタイミングを見ながら一発、一発丁寧にパンチを打ち込んでいる
葛西氏が重点的に説いていたのはバランスだ。上体が前に出てしまうと、パンチをもらいやすく打つ時も瞬時に動けない。
アップのシャドーの動きからそれを読み解いていたのは、練習をそばで見ていた私もさすがだなと感じた。
トレーナーにとって自身の教え子と対戦可能性がある他ジムの選手を受け入れることは異例だ。しかし、葛西氏は日本ボクシング界の底上げを重視し、広く門戸を開けている。
「和氣くんはポテンシャルが高い。後は足の使い方で、カカトを下げて重心を低くすればもっとよくなる」と葛西氏。細かな意識でまだまだ伸びると話した。
和氣もこの日の練習に手応えを感じたようだ。
「バランスがだいぶ良くなりパンチのキレも増しました。自分のものにしていきたいですね」
「左のプロ」とのタッグでレベルアップし、再び世界の舞台を目指す。
和氣慎吾(わけ・しんご)
岡山県岡山市出身、33歳、FLARE 山上ボクシングスポーツ所属、第41代OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王者、第40代日本スーパーバンタム級王者。戦績は35戦27勝(19KO)6敗2分。
葛西裕一(かさい・ゆういち)
神奈川県横浜市瀬谷区出身、51歳、元日本&東洋太平洋ジュニアフェザー級王者。現役引退後は帝拳ジムトレーナーとして後進の指導に当たりながら西岡利晃、三浦隆司、五十嵐俊幸、下田昭文を世界王者にしている。2017年には東京都世田谷区にボクシング・フィットネスジム「GLOVES」を立ち上げる。
【木村悠「チャンピオンの視点」】