「ピッチ内のオーガナイズを期待されていると思っています。チーム全体のバランス、選手と選手の距離感、ボールを持ったときには、攻撃に出るのか、もしくは一度、キープするのか。そのあたりの判断も任されています。
「試合中もみんな、僕には言いやすいところがあるのか、多方面からリクエストがきます(笑)。それぞれの要望を実現できるかどうかも含め、そのときどきで精査しながら、チーム全体のバランスも考えていかなければならない。
「(YBCルヴァンカップの)清水エスパルス戦こそ手を焼きましたが、チームの基本的な戦い方として、ビルドアップで自分たちがどこを使いたいのか、ゴールから逆算してどこのゾーンを使っていくのか。そのための選手個々の立ち位置とプレーの質について、しっかりとオーガナイズできていれば発揮しやすい状況を作り出せるようになってきています」
「守備は安定している印象があります。4バックに対する守り方は、どの相手に対してもしっくりきているし、3バックに対してもサイドハーフを高い位置に出して相手をはめにいくことも含めて、整理できています。
「個人的にはそうした感覚はあまりないですね。確かに、結果的にはやられていないかもしれませんが、その瞬間、その瞬間では嫌な時間や流れがあったりする。だから相手のセットプレーのときも、常に自分のところにボールが来るぞと思って集中するようにしています。やられないと慢心するのではなく、やらせないという緊張感を持ち続けることが大切な気がします」
「やられない」ではなく、「やらせない」。言い回しは似ているようで、その意識は大きく異なる。
「個人的な意見なので、他のみんながどう思っているかは分からないですけど」と、岩尾は言うが、攻撃におけるゴール前の課題も含め、ピッチ内をオーガナイズする彼が、チーム全体に危機感を伝播させているのだろう。
「以前よりもミスも多いですし、自分のプレーがヘタになっている感覚すらあります。過去と今を比較したくはないですけど、徳島ヴォルティスには6年在籍していたこともあって、自分にとっていろいろな道筋が見えやすかった。試合中も、周りが自然と僕を見てくれ、自分が周りを見ずとも、自然とボールが集まってきたので、ルートを探しやすい環境にありました。
「サッカーは人と人が行う競技なので、やっぱりそこは時間がかかりますよね」
「過去の話をしたから言うわけではないですけど、徳島時代のプレーがやりやすかったからといって、浦和レッズでも同じようになることが正解かと言ったら、僕は決してそうじゃないと思っています。違う場所で適応し、答えを見つけ、違う表現ができるようになることで、自分は成長できる。
「今はチームが勝つために、チームがタイトルを獲るために、チームメートと自分も活躍できることを総合的に求めています。それがどんな形であれ、チームにとって、必要な存在でありたいですよね」
「ACLの舞台はすごかったですし、実際、優勝したあとの反響も大きかったですけど、あのタイトルが何を意味しているのかを僕はまだ分かり切っていない。僕にとっては、走っている途中にそれ(ACL)があったというだけで、今も自分自身は何も変わっていない」
「ACLを獲ったことで追われる立場になったと思えば、それは間違いだと思っています。僕らはあくまで追う側なので、それを謙虚に受け止めて、逃げずに愚直にやり続けていかなければ、『その先』については語れない。
「浦和レッズでは、試合に引き分けても、まるで負けたかのような雰囲気になりますよね。すべての試合に勝つことを僕らは求められていますし、まだまだファン・サポーターが求めていることを実現できているところに僕らはいない。常にケツに火がついているというか、ヒーヒー言いながらやっている状況なので、このタフな現状にチーム全体が、選手全員がどれだけ向き合えるかが重要なんじゃないかと」
「何より、浦和レッズでプレーするということは、そういうことなんだとも思っています」
「人間なので、どこかで匙を投げたくなる瞬間ってあるじゃないですか。プロなら勝てよ、というのは正論ですけど、1年間通して、それをやり続けることは決して楽じゃない。むしろ、きついですよね」
「だから、どこかで自分の人生のために生きようとか。弱い自分が顔を覗かせて、ここじゃなくてもいいやとか、別の道があるだろうと思って、そのプレッシャーに負けてしまう人が出てきてしまうと、きっと勝利も、その先にあるタイトルも獲れない、と僕は思っているんです」
「その重圧と1年間、戦い続けて、ようやく呪縛から解き放たれる。だから、カップ戦とリーグ戦はまったくの別物なんでしょうね。リーグタイトルを獲るには、1年間を通して戦わなければいけないだけに、常にその100点を出すのは難しいのかもしれないけど、どこかの苦しい時期に10点や20点を出してしまえば、その瞬間に僕らは終わってしまう。
「本当に毎日がきついですけど、これが永遠に続くわけでもない。ましてや、キャリアのほとんどをJ2で過ごしてきた自分が、この1年でこんなにも素晴らしく、厳しい環境でプレーできているのは、本当に誰もが経験できることではないし、この経験は自分の財産になるとも思っています。だからこそ、自分は絶対にその糸を切らないという堅い意志を持ってやっています。何なら誰かがその糸を切ったとしても、自分が結びにいくかもしれない」
「苦しんだ人にしか見えない景色を見てみたいですし、厳しい道を選んでよかったなと思える瞬間がきっとあると思っています。そうしていないと、自分がどんどん廃れていってしまう気すらするんですよね」
「現状に満足はできていないですけど、確実に前進はしていると思っています」
(取材・文/原田大輔)