ペナルティスポットに立つ重圧は、想像に難くない。
10月12日の北海道コンサドーレ札幌戦。1点を追う終了間際の時間帯。PK判定のVARチェックに5分近くも時間がかかるなか、右手にボールを抱えていると、相手GKの菅野孝憲が近くに来て、話しかけてきたという。
浦和レッズのアレクサンダー ショルツはフラストレーションを溜めていたものの、ボールをセットするときには冷静さを取り戻していた。
「何度も自分に『落ち着け、落ち着け』って言い聞かせました」
いつもどおり、PKの蹴るコースは、あらかじめ決めていた。
今季のデータを見返せば分かるが、狙う方向はほとんど同じ。本人も相手に研究されているのは承知の上だ。
「自分の秘密をあまり打ち明けたくないけど、僕のPKを見ていれば、きっと分かると思いますよ。今日のGKは経験豊富だったので、(左の)上に蹴ってやろうと思いました」
札幌のゴールマウスを守る38歳の守護神にシュートの方向こそ読まれていたが、心理作戦にも動じることなく、狙いどおり、ポストぎりぎりの左斜め上へ蹴り込んだ。
一歩間違えればクロスバーの上を越えるシュートではあるが、まったく気にしていなかった。“PK職人”の自信は揺るがない。
「過去3本成功させたシュートも上のコースに蹴っていますよね? 今回は世界中のどのキーパーでも止められないような1本だったと思います。今までのキャリアの中でも、ベストのPKになったかもしれません」
今季、自身5本目となるPKも見事に決めてみせた。普段から特別にPK練習をこなしているわけではない。むしろ、もっと大事にしているものがある。
「重要なのはメンタル面です。プロのレベルであれば、PKを決める技術はみんな持っているはずですから」
成功率100%を誇るキッカーの言葉には説得力がある。センターバックながらPKを任されるデンマーク人は、こだわりを持っている。今季、リーグ戦だけでPKを含めて、6ゴールを決めているものの、さらりと言ってのけた。
「あまり良い数字とは言えませんね。実質、1ゴールだけだと思っています。僕の中では、PKの得点はカウントしていないんです。なぜかって? PKは最も難しくないシュートだからですよ」
PKは決めて当然と言わんばかりの絶対的な自信。これこそが、“失敗しない男”が持つ強靭なメンタルの源なのかもしれない。
(取材・文/杉園昌之)
外部リンク