アレクサンダー ショルツはいつも落ち着いていて、穏やかだ。
しかしこの日は、そうした大人の佇まいというよりは元気がないように見えた。
そんな印象を告げると、「僕自身は毎日変わりませんよ」と優しい笑顔を浮かべ、そのあと、少しだけ本音を覗かせた。
「悩ましい部分もありますね、やはり、ああいった試合のあとでは」
取材前日に行われたアビスパ福岡戦は自らのPKで先制し、立ち上がりの30分間は間違いなく主導権を握っていたものの、逆転を許して2-3で敗れた。3万人以上のファン・サポーターの後押しを受けた、埼玉スタジアムでのJ1リーグのホーム最終戦だったにもかかわらず……。
「今、チームは自信を失っています。昨日の試合も素晴らしいスタートを切ったのに、相手にゴールを許した途端にガクンと落ちてしまいました。サッカーではときとして、悪い流れに陥ることがありますが、今まさに私たちはその流れに巻き込まれています。早く良かった頃の状態にカムバックしないといけません」
“良かった頃”と表現したように、ショルツは2023シーズンの戦いぶりを、おおむねポジティブに捉えている。
欧州で一線級の指揮官であるマチェイ スコルジャ監督が就任した今季、チームがひとつ上のステージに上がったのは間違いない。
「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)で優勝したのは素晴らしい成果だと思います。(YBC)ルヴァンカップで決勝までたどり着いたのも、過去2年間は準決勝で敗れていたことを考えれば、大きな進歩です。もちろん、優勝できなかったという残念な感情はありますが。また、長いシーズンをかけて争うリーグ戦の順位にウソはないと思います。3位を争っている今の状況は、妥当なものでしょう。昨季は9位でしたから、これも大きな向上です。
マチェイ監督は素晴らしい仕事をしてくれたと思います。悪い部分を取り除き、チームの土台をしっかり築いてくれました。今季の浦和レッズは対戦相手にとって嫌らしく、戦いにくいチームだったはずです。少なくともあと1、2年はマチェイ監督と一緒に仕事をしたかったですね」
充実したシーズンだったからこそ、ショルツは悔しさを抱えているのだ。この素晴らしいシーズンの終わりに、チームが連敗を重ねて自信を失っていることに――。
「私もリーダーのひとりですから、責任を感じています。シーズンのラストに向けて、チームを押し上げることに貢献しないといけないと思っています」
ショルツが浦和レッズの一員になったのは2021年8月だったから、2年3カ月前のことになる。
デンマークのFCミッティラン時代には公式戦で年間10ゴールを奪うシーズンもあったから、攻撃的なDFなのかと思いきや、どんな状況でも冷静沈着で、相手FWとの駆け引きを楽しみながらクリーンにファイトする、安定感抜群のセンターバックだった。
実力と人間性が評価され、今季は副キャプテンに任命された。キャプテンの酒井宏樹や同じく副キャプテンの岩尾憲が不在のゲームでは、キャプテンマークを巻いてピッチに立っている。
ショルツのリーダーシップが溢れ出たのは、例えば、アウェイでのサンフレッチェ広島戦やホームのヴィッセル神戸戦だった。試合中や試合後にチームメイトに喝を入れるかのように、怒りをあらわにしたのだ。
ショルツにしては珍しいことだったが、チームを勝たせたい、いい方向へ導きたいという思いが伝わってきて、むしろ頼もしさすら感じた。
「もちろん、チームを引っ張らないといけないというリーダーとしての思いもありましたし、このクラブでたくさんのゲームをこなしてきたので、自然と出てきたものでもあります。基本的に私は“レイセイ” (※日本語で)なタイプです。後ろでしっかりと仕事をこなしてチームに安心感を与えるセンターバックであって、叫んでリーダーシップを出す性格ではありません。ただ、もっともっとチームに自信を与えられる存在にならないといけないとも思っています」
浦和レッズの選手に限らず、日本人選手は結果が出ないときに必要以上にシュンとしたり、誰かひとりが下を向くと負のムードがチーム全体に伝播したりする傾向がある。
そうした精神的なモロさは、ショルツも感じていた。
「それは“ニホンッポイ” (※日本語で)ところですね。ただ、そうした日本人と我々、外国籍選手のメンタリティの違いを感じるのも、外国でプレーする面白みだったりします。そうした中で、どのようにチームを立て直すのか、どのような言葉をかけるといいのか。私自身も明確な答えを見つけるのに苦労していて、現在進行形で、考えているところです」
例えば、鹿島アントラーズの鈴木優磨がやりにくい相手としてショルツの名前を挙げるなど、今やショルツはJリーグナンバーワンDFと言ってもいい。
そうした実力もさることながら、ショルツの人間的な幅や旺盛な好奇心が、浦和レッズだけでなく、日本のサッカー界へのフィットを早め、高めている。
日本食をこよなく愛し、富士山や高尾山に登り、川端康成をはじめとした日本の小説も読破する。「郷に入れば郷に従え」を地で行く男なのだ。
「人は誰しもエレガントになれると思っています。僕は浦和に何かを教えにきたわけでも、変えにきたわけでもありません。助けになるためにきましたし、学びにきました。キャスパー(ユンカー)が以前、『日本のサッカーは過小評価されている』と言っていましたが、私も同感です。
日本のサッカーはハイレベルです。私は『日本サッカーの大使になりたい』という思いがあります。他の国に行って、『日本のサッカーの質は素晴らしい』『サッカー文化も素晴らしい』と伝えたい。日本サッカーの質を上げるために、僕もベストを尽くしたい」
日本のサッカーだけでなく、「日本での生活も自分に合っていると思います」とショルツは語る。
「チームメイトも『引退するまでここにいるべきだ』『引退しても日本に残るべきだ』と言ってくれます(笑)。私も正直、ここから離れたくないですね。ただ、いつかは離れなければならない。もし、ここを離れるのであれば、Jリーグのタイトルを獲ってから離れたい。浦和に恩返しをしないといけないと思っています」
マチェイ監督の退任が発表され、アレックス シャルクの契約満了とホセ カンテの現役引退が発表された。このメンバーで戦うリーグ戦は、12月3日に行われるアウェイの北海道コンサドーレ札幌戦が最後、公式戦もアウェイのハノイFC戦とFIFAクラブワールドカップを残すだけとなる。
ショルツ自身、11月4日のルヴァンカップ決勝ではチームの全体練習に合流できないまま、ぶっつけ本番で戦わなければならなかったほど痛みや疲労を抱えていた。
素晴らしいシーズンを有終の美で飾るためにも、笑顔で終わるためにも、あと少し、もう少しだけ気力、体力を振り絞り、シーズンを駆け抜けてもらいたい。その先でショルツの満面の笑みが見られることを願って。
(取材・文/飯尾篤史)