神経をすり減らして戦うプロアスリートにとって、心のリフレッシュは欠かせない。
浦和レッズの選手たちも釣りに没頭して心を無にする者、自宅でゲームに興じる者、飼い犬とじゃれ合って心を癒やされる者とさまざまなタイプがいる。
アレクサンダー ショルツは、緑豊かな自然の中に身を置くことでフレッシュなエネルギーを得ているという。なかでもトレッキングは趣味の領域を超えており、かなり本格的。山小屋に泊まり、ひたすら山を歩く。
きっかけは、ハイスクールを卒業したばかりの頃だった。卒業パーティーを終えると、急いで支度をして、ピレネー山脈へ。
「巡礼の旅で知られるスペインのカミーノ・デ・サンティアゴに行ったんです。トレッキングというよりも、ウォーキングに近かったかな。1週間かけて、歩きました」
プロサッカー選手としてキャリアを歩み始めると、山は大事なリフレッシュの場となった。
今でも覚えているのは、アイスランドのUMFストヤルナンでプレーしているときだ。当時は19歳。累積警告で出場停止処分となり、マインドをリセットする必要性を感じたという。
そこで監督に「少しまとまったオフをもらえませんか?」と相談した。シーズン中である。指揮官が簡単に首を縦に振るわけがない。
「『どうしたんだ? デンマークに帰りたいのか?』と聞かれたので、正直にアイスランドで有名な『ロイガヴェーグルへトレックに行きたいんです』と話したんです。監督は驚いて笑いながら、『2日間だけオフを与えるから行ってこい』と言ってくれました」
一般的なトレッキングルートは2泊3日のコースになるが、1泊2日の強行プランを立て、すぐさま準備を整えた。急ぎ足ながら絶景を堪能。「本当に素晴らしい景色だったよ」としみじみ話す。
ベルギーに移籍してからはシーズン中に長いトレッキングはできなかったが、暇を見つけては山に出かけていた。
2021年、レッズに移籍してからも、この習慣は変わっていない。キャンプインする前には、コンディションを整えるために毎年のように大自然の中を走っている。
昨年の冬はニュージーランドまで出向き、幼い娘を背負いながらトレイルランを行ったという。「良いトレーニングになったよ」というコメントも、今季のパフォーマンスを見ていれば、素直にうなずくしかない。
まとまったオフができれば、日本各地の山にも足を運んでいる。ベビーカーを押して1時間で登った高尾山を皮切りに長野、新潟、福島、京都と数え上げれば切りがない。
8月にはアレックス シャルクと日本一の山にも足を伸ばした。
「富士山はトレッキングとは呼べないかもしれませんけどね。私の中では、トレッキングとは何日間もかけて山を歩くものだと思っています」
過密日程が続くシーズン終盤はさすがに山歩きに行く余裕はなく、都会の喧騒から離れて、温泉付き旅館で家族とのんびり過ごすことが多くなっているようだ。それでも、『トレッキング愛』はやはり本物だ。
「つい先日、インターネットで偶然、見つけたのですが、日本には青森県八戸市から福島県相馬市までの1000kmをトレッキングするコースがあるそうですね。調べてみると、5つの県をまたぐルートとか。3年前の情報ですが、日本で一番長いコースらしいです。
でも、1カ月くらいかかると思うので、シーズンオフの休みでは無理かな(笑)。いずれキャリアを終えたら、チャレンジしてみるつもりです」
日本を愛するショルツが行く、1000kmの旅。ドキュメンタリーで追うと面白いかもしれない。
(取材・文/杉園昌之)
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