彼ほど日本文学に深い興味を持ち、明治後期から昭和中期にかけての作品を読み込んでいるJリーガーがどれほどいるのだろうか。
午前の練習を終えると、午後からのんびり読書。そして、遠征の移動中も暇さえあれば、本を開いて熟読する。
約10年前、プロ生活を始めたときからの習慣である。最近のお気に入りは、日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成。
「スノーカントリー(雪国)は素晴らしかったです」
英訳で日本文学を読み漁っているのだ。ヨーロッパから来日して2年目のアレクサンダー ショルツが手にするスマートフォンには、読み終えた本のリストが画面いっぱいに羅列されていた。
「英訳されている川端康成の作品は、ほとんど読みました」
代表作のあらすじを少し話しただけで、すぐに反応して『伊豆の踊り子』に描かれた一場面であることを理解していた。
「川端の文章には、雰囲気がある。独特の世界観があり、そこにぐっと引き込まれていくんですよ」
29歳のデンマーク人が日本に来てのめり込んでいるのは、川端の作品だけではない。夏目漱石、太宰治、芥川龍之介、三島由紀夫、大江健三郎と次から次に文豪たちの名前が挙がる。
「僕は少し古い作品が好みなのかもしれません。文学を通して、日本人の精神を深く理解することができると思っています。日本文学の表現は直接的ではなく、文脈から感じ取る必要がありますよね。だからこそ、イマジネーションを働かせて、読んでいるんです」
戦後、アメリカ駐日大使を務めたエドウィン・O・ライシャワーが書いた日本人論にも興味を持ち、読んだという。
現代文学にも興味を持っており、芥川賞作家でもある柳美里の『JR上野駅公園口』はすでに“読んだリスト”に入っている。
好奇心旺盛で自らリサーチするのもまた楽しみ。取材中に池波正太郎の作品も薦めると、すぐにスマートフォンで検索して英訳本を探していたほど。
ただ、基本的には本屋まで直接足を運び、じっくりと選ぶのが好きなようだ。
「同じ作品を重複して買わないように、スマートフォンにメモしているんです。私は日本に来ることができてラッキーですよ。この国の歴史は長くて、本当に奥深い」
これから読みたい日本の本を数え上げると切りがない。お気に入りの作家の中でも、まだ目を通せていない作品は、山ほどあるという。
秋はすっかり深まり、10月27日から11月9日までは「読書週間」。ショルツに倣い、あらためて日本の純文学を手に取ってみるのもいいかもしれない。
(取材・文/杉園昌之)
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