「その試合に宇佐美選手は左サイドで出ていたから、マッチアップだったんです。彼の得意なパターンはカットインから右足で巻くシュート。監督からも『やらせるな』と言われていて、ずっと警戒していました」
「僕の代だと、大阪では宇佐美選手や(杉本)健勇、京都では宮吉拓実選手が小学生の頃から有名で。ガンバとはしょっちゅう試合をしたんですけど、宇佐美選手は飛び級でプレーしているので練習試合には出てこない。そのときは公式戦だったから宇佐美選手も出場して、それが唯一の対戦でした」
「健勇も高校生離れしていたので、抑えたという印象はないんですけど、僕らが勝っちゃったんですよね。試合後、健勇がすごく怒っていた記憶があります。負けたことも理由でしょうけど、僕らがけっこう挑発していたので(苦笑)」
「健勇は僕のチームのことは覚えていましたね。ただ、僕とマッチアップしたことは覚えてなさそうだったので、僕からも何も言いませんでした(笑)」
「高1から試合に出ていたから、プロになれるんじゃないかって。その後、他府県の強豪校と試合をするにつれて、上には上がいることを思い知らされましたが、大学に進んだ時点でもプロを目指していました」
「1年の頃にチームを振り分けられて、トップチームに行けなかったんです。そこで自分の現在地を改めて知ったというか……。あの瞬間、プロを諦めたような記憶があります」
「ふたりは別格という感じで、オーラが全然違いましたね。プレーの質、パススピード、体の強さも、周りの選手より1段階、2段階上だった。『こういう選手がプロに行くんだろうな』って」
「1年時の担任の先生の専門がスポーツビジネスで、今まで競技者としてしか見ていなかった世界に、もっと違う視点があることを知りました。それで3年時にその先生のゼミに入って、スポーツビジネスを本格的に学ぶようになって」
「それまでサッカーしかやってこなくて、本格的に勉強を始めたのは大学2年になってから。このまま社会に出てやっていけるとは思えなかった(苦笑)。それならスポーツビジネスをさらに学ぶこともそうだし、英語も身につけることで世界を広げたいな、と。
「たまたま日本人の指導者がいて、関わりやすいんじゃないかと思って。それでアメリカ人の監督のもとを訪ねて、『ボランティアでいい、マネージャーでいいので携わらせてください』と頼んだんです」
「僕が手伝うようになった頃、チームが分析に力を入れるため、イングランドから専門家を雇うことになったんです。アンダーのイングランド代表やノリッジ シティFCのアカデミーで分析を務めた経歴のあるジェームスというイングランド人がやって来て」
「そこでまた、『こんな視点もあるのか、これは面白そうだな』って興味が生まれて」
「僕よりも4つくらい下なのに経験を積んでいて、圧倒されました。ジェームスに『俺もやりたい』『勉強させてくれ』と頼んで、『スポーツコード』というソフトウェアの使い方を1から教えてもらったり、映像の撮り方や編集の仕方を叩き込んでもらいました」
「その方を通じてJFAの分析スタッフの方に、アメリカで行われている分析について話をする機会があったんです。そこでJFAの分析の方と連絡を取るうちに、僕に興味を持ってくれて、『Jリーグで分析担当を探しているクラブがあったら紹介するよ』と言っていただいて。数カ月後、『分析担当を探しているJクラブがあるけど、連絡先を教えていいか』と連絡が来たので、『お願いします』って」
「J2やJ3のチームから始められればいいかな、と思っていたので、『浦和レッズ』の名前を見た瞬間に、『え!?』って。びっくりしました」
「家や車を売ったりして、2週間くらいで片付けて日本に帰国しました。本当にタイミング、運、人の縁を感じます。そういうところに感謝しながら、今も生きています」
「データ関連は僕が担当しています。映像を撮影してストックしておき、必要なときに取り出したりも。試合中はスタンドから試合映像を撮影しつつ、戦況を見守りながら平川忠亮コーチ、林舞輝コーチと話し合っています。
「今シーズンの前半戦は勝ち切れない時期が続いて苦しかったですが、チャンス構築率も高かったし、ゴール期待値は(横浜F・)マリノスに次いで2位だったんです。チャンスは作れているし、ゴール期待値は高いので、やり方自体は間違っていないと。あとは決めるだけ。『そこをどう改善、向上させていくかにフォーカスしましょう』とリカルド(ロドリゲス)監督に伝えました」
「もちろん、ACL(AFCチャンピオンズリーグ2022)の戦いも、すごく印象に残っています。あの声出し応援には鳥肌が立ちましたから。ただ、前半戦は引き分けが続いて本当に苦しかったけど、チャンスは作れていたと。それで中断期間にどうやって点を取るか、決定力を上げるかに取り組んで、改善できたのがあの名古屋戦でした。すごく嬉しかったのを覚えています」
「(マシエイ スコルツァ)新監督とは少ししか話せていませんが、ポーランド時代の試合映像を見ると、ワクワクするサッカーを展開されていて。ポジショナルプレーの概念があることを前提として、なおかつ、サイドバックをはじめ後方から人がどんどん飛び出していく。
(取材・文/飯尾篤史)