「いろいろなことが起きたし、嫌な思い、辛い思いもたくさんした。疲れ切っていたので、サッカーから1回距離を置こうと思っていたんです」
「リカルド ロドリゲスさんが監督に就任すると聞いて、これは面白そうだなと。浦和レッズという日本一のビッグクラブで、しかもリカルドさんと一緒に働ける。あんなに消耗しきっていたのに、ちょっとワクワクしてきちゃって。これは休んでいる場合じゃないなって」
「実際、リカルドさんは『彼で本当に大丈夫なのか?』と始まる前は不安だったらしいです。でも、(スポーツダイレクターの)土田(尚史)さんと西野さんが『彼にやらせてみようと思っている』と言ってくださって」
「例えば、次の対戦相手が(横浜F・)マリノスだった場合、マリノスのプレスに対して、ガンバ(大阪)がしっかり外してビルドアップしていたら、ガンバがどんな形でビルドアップしたのかを映像にまとめて、ヒントになるポイントを伝えます。こうしたビルドアップを中心とした次の試合のアイディアを何種類か用意しておきます」
「次の相手はこういう感じで、僕らはこういう風にしたほうがいいと思いますって。これをやると危険なので、その場合はこういう方法があると思います。今のチーム状況だと、このやり方は難しいかもしれません、といった話をしたあと、リカルドさんとコーチングスタッフでディスカッションをするんです」
「リカルドさんがすごいのは、分け隔てなく、みんなの意見を聞いてくれること。そこはめちゃくちゃフラットなので、僕もリカルドさんの案に対して厳しい意見をすることがありました。それでも機嫌を損ねるどころか歓迎してくれる。いろんな選択肢が揃ったなかで、リカルドさんが少しずつ決めていくんです」
「もちろん、確信が持てなければ、練習で何個かトライしてみて、『これならうまくいくね』『このやり方は難しかったね』というのを再び話し合って、メンバーやシステムを決めていく。リカルドさんとは最初は互いに探り探りでしたが、少しずつ僕の意見を取り入れてくれることが増え、信頼関係が築けているように感じました」
「それまでは、まず攻撃では相手のプレッシングのやり方に合わせて3-1-4-2や3-4-2-1に可変して、『この試合の立ち位置はこう』『この相手には立ち位置はこう』とやっていたんですけど、選手のキャラクターとタスクが合わなかったりして、どうも不完全燃焼の試合が続いていました。サメをジャングルで戦わせても戦えないようなものだから、『選手のキャラクターに合わせたほうがいいんじゃないか』ってスタッフ内で話したんです。
「リカルドさんの理想とするサッカーとタイプが異なる選手がいたかもしれませんが、それが逆に武器になるということは、めちゃくちゃ学びになりました。リカルドさんが考えているような、論理的に優位性を得ることだけではなく、論理を外れた理不尽な力を持った選手たちが、最大限の能力を発揮することでチームがうまく回る。だから、配置も大事だけど、組み合わせも大事。英語で言うとケミストリー。2人、3人の関係性の大切さはとても勉強になりましたね」
「相手チームのスタメン予想と、選手それぞれの特徴を書き出して、怪我明けなのか、何試合ぶりの出場なのか、ずっと主力なのか最近どういう経緯で主力に抜擢されたのか、といった情報も添えて。選手名鑑と一緒で、ちょっとした小ネタも挟んで読んでもらえるよう工夫しました(笑)。
「中2日の試合間隔だったので、対戦相手の分析の準備は大変でしたけど、濃密な1週間を経験しました。それに地元開催の国際大会の雰囲気を感じられたのも良かった。ファン・サポーターの方々、メディア、運営なども含めた大きな意味でのレッズのスタッフ、僕らもそうですけど、みんなで雰囲気を作り上げられた。これは勝てるな、と思っていました」
「この試合に関しては正直、延長になって自分ができることはかなり限られてきて、最後は信じて見守るしかなかった。『ああ、お金をもらっている自分より、お金を払っているファン・サポーターのほうがチームの役に立っているな』って思いました。僕も歌ったほうが役に立つかなって(笑)。それくらい、あの歌声や声援はチームの力になっていた。
「ポーランドからコーチングスタッフも連れてくるようなので、僕の役割がどうなるのか、まだ分からない。ただ、勝っている監督なのは間違いないので、一緒に仕事ができるのが楽しみですね。ポーランドのレギア ワルシャワのアカデミーで数週間指導させてもらった経験がありますが、そのときに出会ったポーランドの指導者の友人からも羨ましいと言われました。
(取材・文/飯尾篤史)