ジョアン ミレッGKコーチが日本に魅せられ、日本で10年間指導にあたっている要因のひとつに、日本人選手の向上心の高さが挙げられる。
「日本ほど学習意欲にあふれたGKたちはいません。とにかく学び、吸収しようとする。しかも、何歳になってもその意欲が衰えない。それが、私が日本に恋をした理由です」
浦和レッズのGKコーチに就任した今シーズン、ジョアンは改めてその思いを強くした。あるひとりのベテラン選手と出会ったからだ。
「西川周作です。彼は今年36歳を迎え、過去にはワールドカップにも参加したほどの実績を備えた選手。そんな選手に対して、足の運び方、キャッチの仕方といった基礎から教えようとした場合、『分かってるよ』と思われたとしてもおかしくない。しかし、西川は違う。すべてを吸収しようと積極的に取り組んでいる。もちろん、西川より若い牲川(歩見)や(鈴木)彩艶も同様です」
実際、今季のレッズのゲームを見れば、西川のステップワークやハイボール処理が格段に良くなっているのがわかるだろう。
反対にヨーロッパでは、実績のある30歳オーバーのGKが、プレーヤーとしてリニューアルするかのごとく、大きく進化することは稀だという。
「(イケル)カシージャス(元スペイン代表)に対して、同じようにハイボール処理やキャッチングを教えようとしても、受け入れてもらえないでしょう。カシージャスが最後に正確なキャッチングに成功したのは16歳のときで、それ以降は技術が進化していないように私には見えます。
例えば、(ティボ)クルトワ(レアル・マドリー所属/ベルギー代表)はセンタリングに対する飛び出しに難があり、(マルク・アンドレ)テア・シュテーゲン(FCバルセロナ所属/ドイツ代表)はボールを弾き出すプレーに危うさがある。それを改善させられないGKコーチの問題なのかもしれませんが……」
向上心が高く、謙虚で自己犠牲の精神も強いレッズのGK陣。だからこそ、失点を重く受け止め、ひとりでその責任を背負う傾向にある彼らをサポートし、成長する手伝いをしたいとジョアンは常々思っている。
「周作にはカタール・ワールドカップに出てもらいたいし、彩艶には五輪代表だけではなく、A代表の一員になってほしい。牲川にはどのJ1チームでも正GKになってほしい。さらにはアカデミーからトップチームに上がってくるGKを育てたい。それが私の思い描いているレッズでの目標です」
そのうえで、ジョアンの夢は未来に向かって続いていく。
「西川もいつか引退するでしょう。彩艶は海外に羽ばたくかもしれないし、牲川も別のJ1チームに活躍の場を求めるかもしれない。もちろん私にも、レッズや日本から離れる日がやって来ます。そうしたら誰が残るのでしょうか?
だから私は、GKを目指す子どもたちをしっかりサポートできる指導者も育てたい。シオ(塩田仁史)にはたくさんのことを学んでほしいし、周作も将来、いいGKコーチになって、レッズに戻ってきてほしい」
ジョアンがレッズに来たのは、GKとGKコーチを育て、レッズをGK大国にするというプロジェクトに大きな魅力を感じたからなのだ。
そのプロジェクトを成功させるため、そして世界で通用する本物のGKを育てるという夢を叶えるために――。
今日も大原サッカー場でジョアンは浦和レッズGK陣と全力で向き合いながら、トレーニングを行っている。
(取材・文/飯尾篤史)
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