そのひと蹴りが観客を呼び寄せる。そう思わせてくれるキックだった。
9月20日、浦和駒場スタジアムにて行われた試合は、三菱重工浦和レッズレディースにとって待ち望んだWEリーグのホーム開幕戦だった。
試合前、スタッフも含めた全員で円陣を組む姿からも、この試合に懸ける思いは伝わってきた。
「ホーム開幕ということで選手みんなの気持ちが入っていて、アップからかなり飛ばしているなと思いました。幸先よく高橋はなが先制を決めてくれたのですが、気負っていた部分もあり、ノジマステラ神奈川相模原の守備がよかったこともあり、かなり攻めあぐねている感じで、ボールを失う回数も多かった試合でした」
楠瀬直木監督が語ったように、気合いがやや空回りしていた状況を打破したのが、セットプレーだった。
10分、レッズレディースは左CKを得ると、ファーサイドに上がったボールに高橋が走り込み、ヘディングで先制点を奪取した。
「ゴールシーンは(猶本)光さんからいいボールが来て触るだけでした」
得点した高橋が讃えたように、特筆すべきはアシストを記録した猶本のキックだった。
右足から放たれたボールは、まさに点と点で合わせるかのように高橋のもとへ。速さと鋭さ——両方を兼ね備えたクロスだった。
猶本のキックが光ったのは先制点のシーンだけではない。
1-0で折り返した47分には、やはり右CKから好機を作り出した。
一度は相手にクリアされたボールを再び猶本が拾い、今度は左足でクロスを上げると、南萌華がヘディングで合わせた。
56分にはFKからニアにポジションを取っていた菅澤優衣香の頭に、やはりピンポイントで合わせるクロスを入れた。
次々と決定機を演出する猶本のキックを見て、思い起こされたのはWEリーグ開幕前に話してくれたプレースキックの感触についてだった。
「たぶん、自分の技術が安定したというか。今までは、自分で自分のキックが分からなかったところがあったんです。だから、それまではゴール前にいる選手に、ここに欲しいと求められていても、どうやったらそこに蹴れるかが分からなかったんです。そこを狙おうとはしていましたけど、たまたま、そこにいけば成功するみたいな。
でも、それが昨シーズンは、自分の形も決まってきて、中の人とも話ができるようになったんです。ここの裏を狙うからここにこう入ってきてと、具体的に話せるレベルになりました。今まではどこか感覚で蹴っていたから、どうしてもブレてしまうところがあったのですが、自分のキックが言葉でも説明できるようになったら、技術としても完成されて、ブレがなくなったように感じています」
キックの精度が活かされているのは、CKやFKのときだけではない。27分には栗島朱里の縦パスを受けてDFを交わすと、左足でポストに直撃するシュートを放った。
キックの精度は日に日に鋭さと正確さを増している。
猶本のひと蹴りはスタジアムで見る価値がある。そう思わせてくれるプレーだった。
その猶本も含め、安藤梢、塩越柚歩、菅澤が流動的にポジションチェンジを見せるカルテットの攻撃も魅力のひとつである。
2-0でホーム開幕戦にも勝利したレッズレディースは、開幕から2連勝を飾り、ドラマは第3話へと続く。
次なる舞台はさいたまダービーである。10月2日、アウェイの地で大宮アルディージャVENTUSと戦う試合でも、猶本のキックが勝利を呼び込むことを期待してしまう。
(取材/文・原田大輔)
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